グミ・チョコレート・パイン グミ編 感想

雑記
 休みのときは働きたいと思うけど、仕事のある日は働きたくないと思ってしまう。
 結局のところ自分は無いものねだりで本当に満たされるときなんてありゃしないのかな、と思ってしまうときもある。この小説を読んでいたらそういう気持ちを思い出してしまいます。


 私が読んだのはグミチョコレートパインのグミ編を文庫化したものです。文庫版は1999年に発行されたものですが、ハードカバー版はなんと1993年に発行されたそうです。
 確かにこの本に載っている映画や小説、ロックバンドなどは古いものが多くあります。私はそのときまだ物心つきたてだったので全くわかりません。わかるのはビートルズやクイーンなどの超大物ぐらいです。暗黒大陸じゃがたらやキッスなどは聞いたこともありません。
 そのようなジェネレーションギャップを感じながら考えたのですが、まずこの本は青春小説でありおそらく若者に受けるタイプの小説でしょう。ということはやはり当時の若者が知っているようなものを書いていけば、若者はこの小説に共感して面白いと感じるのかもしれません。しかし、この小説に出てくるいろんなものは1993年に青春時代であった人々でもわかりにくいものが多く含まれていると思います。
 このことから考えるに、この小説は作者大槻ケンジさんが青春時代を思い出しながら書いたものでしょう(自伝的小説と書いてあるのでわかりきっていることですが)。そして読者が感じたであろうジェネレーションギャップには、当時の若者が持っていた悶々とした気持ちは今の若者ほとんど同じものだ、という意味をこめていたのだと思います。わざと昔のものを出してこの小説は昔の時代を描いている、ということを感じさせながら実は「なんだ、今も昔もかわんねーじゃん」と思わせたかったのだと私は解釈します。作者がそのようなことを考えていなくても、結果的にはそのようになった小説だと思います。
 上記のように、この本は若者のもつ「悶々とした気持ち」をつらつらと書いていっています。みんなで力をあわせて甲子園を目指そうとする野球漫画のような熱くて希望にあふれるものとは全く異なり、ただひたすら「自分は凡人とは違う!自分には何かができるはずだ!だけど一体自分には何の能力があるのだろう?」と悶々としながら、ただオナニー(身体的にも精神的にも)を繰り返す主人公たちを描いています。
 でも実際誰もがこのような気持ちを味わったことがあるのであは無いだろうかと私は考えています。私なんて今でもそのような気持ちを引きずりながら生きていますからね。何かでっかいことを成し遂げたいと思っても、その何かがわからない。もし見つけたとしても、その世界では自分よりもはるかにすごい人がうじゃうじゃいる。そんな中で自分は必死にがんばって中途半端な順位に落ち着く、なんて結果になって努力の意味はあるのか、などと勝手に一人で悶々とすることが多いです。
 他人の本心なんてもちろん私にはわかりません。リアルが充実している人は悶々とすることがあるのでしょうか。例えばチャライやつとかね。おそらくこの小説に出てくる悶々野郎たちは、凡人はこのような気持ちを味わったことが無くただ今の無意味な享楽的な日常を過ごしているのだ、と考えているのだと思います。確かそのような描写も小説内にあったと思います。
 このようにグミ編では自分には何ができるのだろうと悩みながら、ついにノイズバンドという、俗物の代表である歌謡曲とはかけ離れたアングラ的なバンドを目指すことになります。本当にこれで俗人間どもの鼻をくじくことができるのか、自分は本当に本物なのか?今までの悩みの答えを出すためにも、主人公たちは希望をもって歩み始めます。超人ロードを。
 この小説は青春時代の心を真正面から描いています。ですがシリアスな場面だけが続くことはほとんどなく、大槻ケンジさんのいろんな分野からの小ネタが多く挟み込まれています。バンドに始まり、プロレスのことやらCMソングのことまで。世代も違って作者自身「こんなの読者は知っているのか」と疑問に思っているのですから、私にはさっぱりわかりません。ああ~さっぱりさっぱり
 ですがそれがわからなくとも、今も昔も変わらないものの描写が多いのですから心配はありません。その今も昔も変わらないことは、ええもちろん、オナニーです。オナニー描写がかなりあります。冒頭でいきなりオナニー進化論を語りだしますからね。女性読者は一体どのように感じるのかが疑問です。多分ドン引き?
 オナニー描写は男ならかなり共感できて笑えます。一日三回かかさずするのは共感できませんでしたが、そのオナニーに対しての心がまえは大いに共感できます。かなり下品ですが。
 オナニーと悶々の日々を送る若者たち。彼らは今も昔も変わらない。だからこそそのエネルギーを外に向かせた若者がこれからの文化の担い手になっていくのでしょう。悶々とはエネルギーの源泉だと私は考えているので、そう思っています。
チョコ編
パイン編
 

グミ・チョコレート・パイン グミ編 (角川文庫) グミ・チョコレート・パイン グミ編 (角川文庫)
(1999/07)
大槻 ケンヂ

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小説

Posted by YU