小説版 NHKにようこそ! 感想
すべてはこれから始まった・・・
と言えるぐらいにこの小説は私の生活を変えるきっかけとなりました。
理由は続きを読んでね!
私とこの本との出会った場所は、私がよくいく本屋でした。そこではいつも漫画を買ったり立ち読みしたりしているところですが、当時は全く小説には興味がなく小説のコーナーになんて行っていませんでした。
しかしあるとき、漫画を買うため小説コーナーを素通りしようとしたとき、この本が目にとまりました。小説コーナーにあるのに少女が載っている漫画みたいなイラスト、「NHKにようこそ!」なんていう不思議なタイトル。この明らかに周りにある他の小説とは異色な表紙に、私は興味を持ちました。ですが表紙が少し普通ではないので、少し手にとるのをためらいましたが、周りをきょろきょろ見回しながら読むことにしました。
本を開くと、やはり小説。挿絵なんて一枚もないようなものでした、がしかし、文章を読むとなんとも軽くて面白みがあって読みやすい。最初の数ページで面白いと感じた私は、漫画を買うことを忘れてレジに行きました。
この本を読んだあと、私は小説という媒体に興味を持ち、何か面白い小説はないのか!と探し回るようになりました。そしてこの小説が漫画化されていると知ってそれを手に入れ、アニメ化されたと知ったらどうにかして見ることにしました。
おかげでこれまではジャンプ作品をよく読んでいた私が、青年誌のマンガ本のような大きめのサイズの漫画ばかり読むようになり、深夜アニメなんて興味がなかった私が深夜アニメを見るようにもなりました。言ってみれば、この「NHKにようこそ!」のおかげで私はサブカルチャー好きのオタク(まだオタクだと言えるほどではないかもしれませんが)になってしまいました。
でもそれでもいいのです。このおかげでいろんな面白い作品に出会うことができ、私の趣味の幅が広がったことを考えれば、これは大きな進歩です。もしこの作品と出会っていなければ、私は無趣味のつまらない人生を送っていたかもしれません。
あ、もちろんこの本からの影響は精神的なものもたくさんありますが、そのことは後ほど。
では感想に移ります。
最初に、この「NHKにようこそ!」の文体はなんとも普通の小説とは異なっています。具体的にいえば、一文一文の量が少ない、改行が多い、「俺」の一人称でストーリーが進んでいく、「・・・」がよく出てくる、などなど。学生のときに読んだ国語や現代文の教科書の文とはまるで違います。
まさにこの文章は小説の革命的なものだ!なんてことを当時は考えていましたが、実はこのような文体は「ライトノベル」という小説のジャンルではよくあるものだそうです。ということはこの小説はライトノベル?なんて考えましたが、本屋には普通の小説とライトノベルでコーナーが分かれているのにこの小説は普通の小説コーナーにありました。うむむ、よくわからん。
インターネットでこの本について調べていくとこの疑問を解決するようなものがありました。記憶が曖昧なので詳しくはわかりませんが、たしかこの小説を発行した角川出版社によると、
この小説の根底に含まれている思想は純文学に匹敵するほどのものだ。だからこそライトノベルとして発行するのではなく、普通の小説として発行した。
こんな感じのことがどこかで書かれていました。こんなことを言われるほど、この小説は何かすごいものを持っているのでしょうか。
冒頭、いきなり「陰謀」について語られます。この世の中は陰謀が大好きだ。しかしそれは陰謀のおかげで自分はだめなやつになった、という逃避にすぎない。しかし本当に陰謀を知った人間、それは俺だ。
この小説の主人公、佐藤はひきこもりです。大学中退して四年間ずっとひきこもり。部屋はアパートで、飯はコンビニ。アルバイトはもちろんやっていないので、お金は親からの仕送り。コンビニ行ってんならひきこもりじゃねーじゃんなんて思うかもしれませんが、なんと佐藤の睡眠時間は16時間!このだめ人間っぷりはひきこもりとよんでも差し支えないと思いませんか?
しかしそんなひきこもりのだめ人間の佐藤が、謎が多い少女の岬ちゃんに興味を持たれたり、高校時代の後輩だった山崎と偶然再会したり、高校時代の先輩と再会したりなどなど・・・ひきこもりのくせに何かと出会いが多いのです。
やはりそこらへんの設定は漫画版と同じですが、展開がだいぶ違っています。先輩と会うのは少しだけだし、山崎とのエロゲー作りは狂ったようになるし、薬物がバンバン出てくるし。やはりそこは規制とかで変更になったりするんですね。
一見馬鹿らしい展開で面白く読むことはできるのですが、その馬鹿らしい展開の中で登場人物は苦しみ、この不条理な現実と向かい合っています。
佐藤は何年も経った今でも、輝かしい自分の高校時代を思い出しています。山崎は自分の夢を叶えようと上京したのに、両親に実家を継げといわれて帰らなければならない。岬ちゃんは自分はいてもみんなに不幸を与えてしまうと悲観して。みんながみんななりの悩みを持ち、その問題を見てしまわないように現実逃避をする、それが「NHKにようこそ!」の大筋ではないでしょうか。
佐藤はその現実逃避とひきこもりの生活から、自分の最も欲しいものを悟ります。
中途半端な幸せなんていらない
倒すべき悪が欲しい
いってみれば佐藤の望むものは、「自分が心から望むこと」を欲しているのではないでしょうか。
戦時中は日本の敵を倒すことを若者たちは目標としていました。それは確かに洗脳だなんて言われるかもしれませんが、何もやりたいことがない人間にとっては本当に嬉しいことだったのかもしれません。
人が生きるのは何かやりたいことがあるから。しかしもしそれがない人間は何をすればいいのか?何をやっても自分を満たしはしないし、誰かが幸福になるなんてこともない。だから佐藤は悩み、傷つくのを恐れ、死にたがる。
イデオロギーの崩壊なんて言葉もあるとおり、今の若い世代は本気にならずにただだらだらと毎日を過ごす。しかしそれの裏側にあるのは、やはり佐藤と同じような悩みを内包しているのだと私は思います。
物語の最後、佐藤は岬ちゃんの自殺を止めようとします。それはただ岬ちゃんを救いたいという気持ちもありましたが、それとは別の気持ちもありました。それは、自分が自殺すること。
彼の悩みはを解決するには、この世界そのものから離れなければならない。そしてそのきっかけとしたのが、岬ちゃんを救うためでした。前述にあるとおり、佐藤の悩みはもはや外部ではなく自分の中にあるもので、自分を変えようとしなければどうしようもならない。何か強い意志と望みをもてば悩みは解決するのだけど、結局無理でした。しかし!全てを完璧に解決する方法を見つけたのです。
岬ちゃんを救い、そのための意志を持つことができ、全てから解放されて悩みが全て無くなる、自殺を佐藤は選んだのです。小さな爆弾ではこの世界を破壊することはできない、しかし自分を殺すには十分だ。そう言って、佐藤は崖へと走ります。6畳一間の部屋を飛び出して、大空へ飛びます。
しかし、その思惑は失敗に終わりました。佐藤の自殺は失敗し、生き延びてしまいました。彼はまたアパートで生活をはじめます。何も変わってはいない。けれども、確かに佐藤の心には何かが残りました。
佐藤の自殺失敗のとき、岬ちゃんに「日本人質交換会(NHK)」というあなたが死ねば自分も死ぬ、なんて約束事をされました。例えそんなことをしても、自殺をしないようになるだけで佐藤も岬ちゃんも悩みは解決されない。だけどそれでも佐藤はそれに同意してしまいます。
そんな佐藤に岬ちゃんは言い放ちます。
「NHKにようこそ!」
・・・終わってみれば、この作品は確かに一般小説ほどに考えるべき点の多い作品だったと思います。信じるものがないこと、意志を持てないこと、そしてとてつもなく大きな世界を変えるには、自分が死ななければならないこと。
その視点を変えた世界の見方には、この小説を読んだ当時は本当に驚くべきものでした。それまでは自殺というのはただ嫌なことがあったとか借金があって死ぬとかそういうものしか知らなかった私にとっては、この受動的ではなく能動的な自殺というものには目から鱗が落ちました。
ずっと暗めなことを書いてきましたが、もちろんこの小説の魅力はそれ以外にもありますよ。薬で狂ってあほらしい行動をすることや、佐藤と岬ちゃんのひきこもりカウンセリングなどなど。笑えること必至ですよ?
これにて私の思い出の小説の感想を終えることにしますが、あと一言。
岬ちゃんは俺の嫁!!
NHKにようこそ! (角川文庫) (2005/06/25) 滝本 竜彦 |