眉山 感想

雑記
 最近、過去の名作というものを見たり読んだり聞いたりしている。そしてそれらの解説にはよくこういうのが載っている。
 「~の○○は近代の…について警鐘を鳴らしている」
 正直、こういうのって本当に正しいのかなあと思う。どんな作品でもそういう観点から見ればそういう風に見えることが多い。言ってみれば、作品を社会派に仕立て上げて明確な意味を持たせようとしているのだと思う。それはやはり解説者にとっては楽しいことだろうが、作者にとってはどうなんだろうか。作者がそのように解釈されたのを知ったら、「よくある社会派作品の一つだと読者に思われているのだろうか。」と思うかもしれない。もちろん作者がそのような思いで作品を作ったのなら別にそれでいいが。
 文系、といっても理系のように理詰めで意味を解明していくことはしないということではない。彼らも明確な意味を研究しているのだろう。しかしそれは作品の本当の面白さを見つけるというわけではないと思う。まあ、その研究自体が楽しいことだろうが。
 


眉山
 我が故郷、徳島県が舞台であり最近いろいろ活動中のさだまさしさんが書いた眉山の感想を書きます。
 あらすじとしては、女性である主人公の母がパーキンソン病になり、そして母が大学に自分の遺体を献体することを望んでいたところから始まります。母は江戸っ子であり、父はいません。なぜ母は徳島に来たのか、なぜ父がいないのか、そしてなぜ献体なんてことをしようとしたのか。それら全ては母の愛した人が関係していた―――
 舞台が徳島なだけあって、徳島で有名なものがバンバン出てきて面白かったです。鳴門のワカメ、ラーメンいのたに、大歩危小歩危、吉野川、眉山、スダチ、そしてなんと言っても徳島県で一番有名な阿波踊りなど、徳島県民や徳島をよく観光する人ならだれもが知っていることでしょう。
 だからといって、他県民なら絶対に分からないほどの超どマイナーなものは出てませんので安心してください^^;
 徳島県民から見れば、「これ、わざと徳島の観光情報を乗せて徳島をPRしているんじゃないか!?」とも思いましたよw
 それに方言の使い方がかなり上手かったと思います。
 徳島県民で若い人は「~なんじょ」とは言いません。代わりに「~なんよ」とよく言います。ですが中年以上になると「~なんじょ」という言葉を使う方が出てきます。
 この小説でもまだ少し若い主人公は「~なんよ」を使い、その周りの中年以上の方は「~なんじょ」を使っています。
 正直この方言の使い分けはかなり感心しました。こんな違いなんて徳島に住まないと明確に意識することは出来ないと思います。さだまさしさんは徳島にいたことがあったのかな、と疑問に思ったのでウィキペディアを見てみましたがそんなことはありませんでした。一体さだまさしさんはどうやってこの方言の違いに気づいたのでしょうか?不思議です。
 
 
 ではストーリーの感想に移ります。
 ごめん、正直母に感情移入できなかった。
 この物語の進行は、母の生き様を娘が見ていくようなスタイルで描かれていると思います。ですので物語の中心にいつも母がいて、そしてその周りにいろんな人が出てくるというような感じです。そういうスタイルであるからこそ、物語の見せ場は母であり魅力にもなっているのだと思います。
 ですが…個人的に母を好きになることが出来ませんでした…。母はチャキチャキの江戸っ子であり、喧嘩っ早くさっぱりした性格です。そんな人間だからこそ彼女に惹かれる人も多く、自身はなんにでも挑戦してなんにでも出来るのです。最初彼女に叱られた人も結局は彼女を崇拝するようになり、そして出世していくようになります。母のファンはには徳島で名だたる人がたくさんいる、だそうです。
 ですがここで「母はスーパーマンだ、と書きすぎている」感じがしたのです。そりゃまあ、この小説はフィクションですからどんな性格の人が出てきても許されるでしょう。しかし舞台がノンフィクションの現実世界ですから、そんなスーパーマンを出されたら少し嘘っぽく感じてしまうのです。
 それに正直母の言動も気に入らないところがありました。よく娘に対して「お前はそんなんだから馬鹿なんだよ」みたいな台詞が結構多いのが、なんだか自分が絶対正しいと思っているような感じがして少し不快でした。
 ですが、やはり色んな疑問が氷解していくラストシーンは良かったです。まるである一人の人生全てを見てしまったかのような、長い年月の間流れてきた深い愛を見ることが出来ました。今思えば、冒頭のシーンはラストシーンのエピローグのようなものだったんですね。そのように繋げる手法はなかなか面白いし、伏線をばら撒くにはいい方法だと思います。
 それになぜ徳島県を舞台にしたのか少し理解できました。おそらく、自由奔放で宗教的意味を持っていない、民衆のストレス発散祭りである阿波踊りがあったからでしょう。その自由奔放ながら、力強く統制の取れて忍耐強くもある阿波踊りこそが母の生き様にそっくりだったのだと思います。
 なんかこの小説を読んだ後に、ものすごく実家に帰りたくなりました。帰って海で泳ぎたい!阿波踊り見に行きたい!大歩危小歩危の秘境っぷりを味わいたい!
 徳島は地味ですけど、やっぱり故郷は故郷です。いいものに変わりはありません。

眉山 (幻冬舎文庫) 眉山 (幻冬舎文庫)
(2007/04)
さだ まさし

商品詳細を見る

小説

Posted by YU