坊っちゃん 感想

坊っちゃん  作 夏目漱石
 夏目漱石の書いた、「坊っちゃん」の感想です。
 高校生の頃に一回読んだことがあるのですが、読み直してみることに。
 

坊っちゃん (新潮文庫) 坊っちゃん (新潮文庫)
(2003/04)
夏目 漱石

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 あらすじは、無鉄砲で江戸っ子であり、社会制度よりも義理を重視する「坊っちゃん」(名前は登場しない)が、松山の中学校で教師として働きに行き、そこで色々な教師や生意気な生徒達に出会う、というような感じです。
 まず第一に言えることが、文体がテンポ良くて面白すぎるということですね。例えば、

やあ、君が新任の人か、ちと遊びに来たまえアハハハと言った。何がアハハハだ。

「あの赤シャツ(人のあだ名)がですか。ひどい奴だ。どうもあのシャツは只のシャツじゃないと思ってた」

赤シャツが何ダース寄ったって、これ程立派な旦那様が出来るもんか。

 とまあ、この小説は主人公の一人称視点で書かれていますから主人公の気持ちも逐一書かれているわけですが、その主人公の本音の口の悪さだとか直感的で面白い言葉使いだとかがあって、読んでいるとかなり笑えます。
 この文章の軽さは、現代のライトノベルに合致する部分がありますね。高尚なようには一切見させずに、ただ面白く流れるように、直感で作者がこの小説を書いたことがうかがわさせられます。もう本当これ、文体だけ見りゃあ明治のライトノベルと言っても過言ではないでしょう。
 ちなみに、夏目漱石はこの小説をものすごい速さで書いたそうです。単行本に載っている解説によれば、漱石は400字詰め原稿用紙を一日で20~30枚程度も書き、なおかつ文章の直しもものすごく少なかったようです。
 ものすごいスピードです。このスピードで執筆したから、このようなテンポ良くてリズミカルで、読者もかなり速いスピードで簡単に読み進めていけたのでしょうね。もし、一文一文を丁寧に書いていれば、このようなテンポの良さは失われて、清々しい内容の良さも失われると思います。文章を書くときは内容に沿うようなテンポも重要なんだろうなあ、と感じましたよ。
 ストーリーは、一応勧善懲悪モノとなっていますが、最終的には、悪を懲らしめようとした主人公と山嵐は社会的には負けているんですよね。
 社会制度や嘘を上手く使って、赤シャツや野だは自分の思い通りに周りを動かそうとしており、人道的に見れば「悪」に見えます。しかし社会(≒明治の社会)には、嘘をついたり人を口で言い負かして自分の都合のいいようにすることを罰する法律はなく、人道的に「悪」だと思われるようなことをしても特に問題はないのです。
 江戸っ子の主人公や頑固で知られる会津人の山嵐は、制度的「悪」よりも人道的「悪」を許すことが出来ず、最終的には教師を辞めて赤シャツと野だに天誅を加えます(まあ天誅と言っても、ぽかぽか殴るだけですが)。
 主人公は月給40円の教師から、月給25円で鉄道の技手となるところで物語は終わります。社会的には報われない結果となりましたが、主人公も山嵐も後悔している様子は見られず、清々しい気持ちになっているようですね。
 「坊っちゃん」は、人道的「悪」よりも社会的「悪」を重視するようになった明治時代への皮肉を含ませているように私は思えます。そりゃまあ、政府にとっちゃあこのような図式のほうが管理がしやすいし合理的なのでしょうが、「じゃあそれで人々の心は豊かになったか?」という疑問を漱石は投げかけているように私は感じます。
 直感で考えて主人公の味方をしてくれる清のおかげで、主人公は心の拠り所を持っていられるし、清も自分の考え方に満足しているようです。
 生きるためには論理的で合理的な考えが必要になることは多々ありますが、そのような考え方が自分の幸せに直結するか、って言うとそうとは限らないんですよね。そのようなことをこの小説から受け取りましたよ。
 さて余談ですが、私は昔の学校では、「生徒は教師に対して『神に近い存在であり絶対に逆らってはいけない』と考えている」ように思っていました。しかし、この小説では生徒が、先生に逆らったり馬鹿にしたり他の学校の生徒と喧嘩して騒動を引き起こしたりしているようで、あまり厳格さが見られませんでしたね。
 よく、中年や老人が「昔はもっと厳しかった。先生に何か言うとすぐに殴られた」と言いますが、少なくとも明治時代では私のような若者がイメージするようなピリピリしすぎた雰囲気は無さそうです。そりゃまあ体罰はあったでしょうが、「先生=神」というほどでは無かったようですね。
 後、私が読んだ「三四郎」にもありましたが「坊っちゃん」でも、『新聞屋は碌な調査もせずに一人の言い分だけで記事を書く』、というような記述がありました。当時の新聞屋はあまり真実を追究するジャーナリズムをあまり持っていなかったのか?というようなことを考えると、面白いですね。(まあ、今の新聞も微妙なジャーナリズムですが。誤報しても、「誤報」だと小さく載せるだけだったり)

小説

Posted by YU