指輪物語(ロードオブザリング)原作小説の感想

指輪物語

指輪物語(The Lord of the Rings
著者:J・R・Rトールキン

訳者:瀬田 貞二、田中 明子


イギリス人のトールキンが1937年から1949年にかけて少しずつ執筆した、ハイ・ファンタジー作品です。3部作となっており、その全てが世界史上のベストセラートップ10に入るほどの大人気作。
日本語訳本編は9巻という、かなりの長編小説です。
ちまちまと日常生活の合間に、長い時間をかけてようやく読破しましたので、感想を書いていきます。

ファンタジー作品は子供向けのものが多い中、今作は比較的大人向けの作品です。言語学者でもある作者が、かつてのおとぎ話や神話なども参考にしながら創造した世界。
その中の1つの物語が、この「指輪物語」です。

冥王サウロンの武器であり弱点でもある、「一つの指輪」を巡る戦いの歴史。

なお、設定が非常に多いので、忘れてしまったり調べ直したりしたい時は、中つ国wikiwikipedia(category:指輪物語)を参考にしましょう。

脱落する人は多いと思う

いきなりこんなことを書くのも何ですが、正直に伝えます。

原作小説は世界観の説明が非常に多く、覚えておくべき人名・地名・歴史の量が膨大です。

そのため、文字量の割に物語が進行するスピードが遅く、生半可な覚悟では読破しきれない人も多いと思います。

例えて言うなら、北欧神話やギリシャ神話を、改めてイチから勉強し直すのと同じレベル。

指輪物語は、ドラゴンクエストなどの後世の中世ヨーロッパ風ゲームやファンタジーに大きすぎる影響を与えたので、読んでみたいと思う人が多いでしょう。
今では存在が当たり前となった、エルフ、ドワーフ、オーク、自身が強力な力を持ち異形の者たちを使役する冥王(魔王)、伝説の剣やミスリルなどのアイテムが出てくるんだから。

しかしだからと言って、ゲーム好きな子供なら誰でも読みきれるとは限らないだろう。

ってのが、自分の本音です。

でも、心躍るシーンは多いし、全ての戦いが終わった時・読破した時は、非常に大きな達成感を味わえます。

それは、長時間かけてRPGをクリアしたのとほとんど同じくらい。
そして、この感動が後世のファンタジー作品に繋がっていったんだ、影響を与えたんだという感慨!

この感覚を得たいならやっぱり、読破するのを推奨します!

日本語訳について

非常に良い出来だと思います。訳者の英語に関する知識と、日本語の語彙が非常に素晴らしい!特に、訳者あとがきの日本語の美しさは必見。トールキンは、英語以外の言語に翻訳する際には「英語に由来する名詞は各国の言語に修正すること」と注文しています。
(ただし、エルフ語などの作中名詞はカタカナでそのまま)
そういう訳で、日本語名詞も多く登場します。
指輪物語の日本語名詞で最も有名なのは、主人公フロドの武器である「つらぬき丸」でしょうね!英語だと「Sting」で、これは貫くものという意味。
アラゴルンのあだ名は、英語だと「Strider」であり、これは大股で歩く人という意味。日本語では、「馳夫」…まあ確かに日本語では良い単語が無かったのは分かるけど、初めてこの単語を見た時はちょっと笑ったwしかし、この『ちょっとダサいなw』と思う感覚は、物語の中でもちゃんと役に立ってます。「王」という言葉に比べれば蔑称みたいなものですが、アラゴルン自身は気に入っているようだしね。馳夫という言葉がホビット達と出会った時から使われていたことで、立場が変わっても友情は変わらないことを示している気がする。

世界観

碌に説明の無い中世ヨーロッパ風ファンタジーに比べれば、かなりの設定があります。その多くは神話レベルのもので、長命種のエルフやガンダルフの語りによって作中で説明されていきます。
とりあえず、大昔から連綿と続く歴史の下に、フロドが所持している一つの指輪が今ここにある。ってことを理解できれば、「指輪物語」のストーリーは読み進めていけるでしょう。フロドのようなホビットだけではどうしようもない、神話クラスの超強力なアイテムこそがこの指輪であると。

「指輪の物語」について

今作のラストボス冥王サウロンの力の元であり、弱点でもある『一つの指輪(統べる指輪)』。
この指輪をサウロンが身に付けると、中つ国全体を支配できるほどの力を持つことになります。また、この指輪が世の中に存在するだけでも、サウロンはある程度の力を持ち続けることが出来、異形の者たちを使役したりすることなどを可能となっています。そのため、かつての戦争で失われた指輪を取り戻そうとサウロンは躍起になっており、この指輪を処分しない限り中つ国からサウロンの脅威が去ることはありません。

今のところこの指輪はホビット・エルフ・人間・ドワーフ側にあります。身に付けることで強力な力を持てるものの、精神が蝕まれて堕落し、次なる冥王になってしまう恐れがあります。使うか、処分か。各種族の統領たちが裂け谷で話し合い、結局ホビットのフロド、賢者のガンダルフを始めとしたパーティーで、指輪を処分しに行くことになりました。敵軍に見つからないよう、ひっそりと旅を始めます。目的地は、指輪を唯一破壊できる場所、敵拠点奥深くに存在する滅びの山(オロドルイン)。ゲームみたいに、パーティーを組んで冥王や敵軍を倒しに行くわけではありません。

指輪物語はゲーム好きが今更読んでも面白いのは、敵をいっぱい倒して最後にみんなで力を合わせてラストボスを倒す、というありきたりな現代RPGとは違うストーリーだからだと思います。旅の間に迷ったり(特にアラゴルン)、偶然二手に分かれてそれぞれでベストを尽くしたり、ゴクリ(ゴラム)という強烈なキャラが登場したりと、指輪物語ならではのシーンは多いです。
色々な歴史や設定の描写もありますが、自分が好きなのはやはり多くの面白いシーンですね。バルログとの戦い、オークに誘拐されること、角笛城の戦い、アイゼンガルドの崩壊、ペレンノール野の戦い、シェロブとの戦い、そして滅びの山での指輪の処分とホビット村への帰路!
特に、指輪の処分が終わった後の、フロド達とアラゴルン達が合流するシーンの爽快感は素晴らしいの一言!各登場人物達が死ぬほどの苦労をして、見事報われたときのあのシーンは、ゲームのラスボス戦を終えてエンディングを見ている時の感覚とほとんど一緒。登場人物達だけでなく、読者自身も一緒に彼らの今までの旅を思い返して、感慨に耽ることが出来るでしょう。また、旅の途中に出会った人々との再会のシーンもありますしね。
最後の最後、賢者なのに意地汚くて人間らしいサルマンが、ホビット村にちょっかいを出します。でも、旅を終えてレベルが上がったホビット達の敵ではありません。問題は解消され、ホビット村は再興し、フロドはこの物語を本に書きます。その本を英語に直したのが、トールキンの書いた「指輪物語」であるというわけです。

エンディング、指輪所持者となっていた影響と治らない傷を負ってしまっていたフロドは、エルフ達やガンダルフ、前作主人公のビルボと共に、西方の浄土であるアマンへ船出します。

指輪物語 エンディング 挿絵

この達成感と別れの寂しさのエンディングもまた、現代の作品に受け継がれているのではないでしょうか。

寓話ではない

あとがきに明記されていますが、この物語は教訓的な内容や作者の言いたかったことを示す「寓話」ではありません。

一番主な動機は、本当に長い話で腕試しをしたいという物語作家の欲求である。読者の注意を引きつけ、おもしろがらせ、喜ばせ、時にははらはらさせ、あるいは深く感動させるような長い話を書いてみたいと思ったのである。(中略)何らかの寓意的な意味を持つものではなく、あるいはいかなる形であろうと現代の政治にふれたものではない。

読者・批評家・研究者たちは、良くも悪くも作者について研究し、物語そのものより現世の影響なんてことを考えがちです。トールキン自身がそのことをよく理解しているため、あとがきでこの作品はそうじゃないことを明記してます。
彼の言語学的・神話的な興味からこの物語は萌芽したのです。

メタ的な要素もあるが、この作品が後年のオリジナルとなっていく

この指輪物語は、ハイファンタジーの古典であり原型であると、現代では評価されています。しかしこの物語自身が「物語」を意識しています。
作中の中でも多くのかつての「詩」や「物語」が登場し、登場人物たちが「自分たちもこのような詩として残るのだろうか」と言及するシーンが多くあります。人物たちが過去の物語に影響されて、今の物語を作っていく。そしてその物語(指輪物語)が、また更に現代の物語に影響し、『オリジナル』になっていく…

現代から見ればこの指輪物語は、物語の原典の一つである。しかしこの指輪物語にも、架空の世界にせよ現代世界にせよ『原典』が存在する。
多くの物語を見聞きした大人ならば、作中に含まれる「物語の物語」というメタ的な要素にも気づくんじゃないかと思います。そういう訳でやっぱり、大人こそ読んでみるべき!

小説

Posted by YU