アライブ最終進化的少年 総括

雑記
 足るを知ったと、胸を張って言えるようになりたいものです。

アライブ 最終進化的少年 全21巻 完結セット (月刊マガジンコミックス) アライブ 最終進化的少年 全21巻 完結セット (月刊マガジンコミックス)
(2011/02/28)
あだち とか

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総括
 まずは設定の整理から。
 物語の発端は、文明が発展しすぎて亡びそうになった星の人間(?)たちが、指導者に導かれて一つの精神体となり宇宙に飛び出して永遠に生きることが出来るようになったものの、変化の無い恐ろしく退屈な状況から脱するために、地球上の人間の命を借りて死のうとするのが始まり。精神体こそが最高の進化形態だと思われたのに、「死こそが最終進化!」ということに至るのが面白いです。
 「彼ら」は人間の心の闇に巣くい、闇が小さい人間に巣くったときには自殺を行い、闇が大きい人間には個性豊かな「死」を下す能力を与える。その能力は、心の闇の中にある、願望が元。
 心臓の欠片が落ちてきた人たちは、一緒に落ちてきた御霊と心臓を引き合わせるためにその使命を与えられます。欠片所持者はデフォルトで、洗脳能力と心の闇を見透かす能力、治癒能力の向上が得られます。
 さてここで疑問なのが、「彼ら」にとって御霊とアクロの心臓とは何なのか?ということです。これって作中で詳細に描かれていましたっけ?
 心臓を得た御霊は、全人類を精神体にして制御する力を持つプログラムだそうです。「彼ら」が精神体になるときに御霊の力を使ったのでしょうが、いったん精神体になった後は御霊のようなプログラムは必要だったのでしょうか?一応残しておいた、という可能性は考えられますが、ではなぜこの地球上に「彼ら」がたどり着いたときに、御霊が復活する必要があったのでしょうか?単なるプログラムなら、「彼ら」の意志を尊重して、もう一度プログラムを発動しようとすることはなかったように思います。
 再発動の理由を考えるには、御霊が「死」以外の進化を望んでいたことと、やはり指導者的性格を持ち合わせていたからなのではないかと私は考えます。「御霊は神じゃない」と太輔は言っていますが、「彼ら」にとっては神or指導者の立場だったのでしょうか。そしてプログラム再発動のきっかけは、太輔と広瀬に宿った「小さき者」の存在に気づいたこと?
 ちなみに「アクロ」とはギリシャ語で「最高、最上」とかいう意味らしいです。
 心の闇と能力者についても考察してみます。
 最初は勝又によって、「能力者とはコップに注いだ水が溢れなかったやつら(心の穴が深い)」という説明がなされ、「死」への欲求が強い人間たちだと私は思っていました。が、13巻のホーナー博士のセリフでは、「能力は本来己を殺めるためのもの。しかし生を強く望む人間によって変化し、力となった」だそうです。そして、能力者にとって、アクロの心臓とは「死んでも欲しいもの」だそうです。1部終了時には岡田や森尾たちが死に、ナミ、ユータ、由良たちが生き残ったこと。
 上記から判断するに、能力者になる素質とは、「心の穴があり、死んでも欲しいものがある」であり、1部終了後に残った能力者は、「死ぬのが怖くなった、怖いことに気づいた」やつらだったのではないでしょうか。由良の行動と心情を追っていけばわかりやすいかも。
 能力というのは本来自分を殺めるためのものだったようですが、能力が個人の願望に左右されるということを考慮すれば、何とも皮肉なものです。自分の望むものに殺されるだなんて…。望むものだからこそ、そのために死ねるとも言える?
 
 太輔、恵、広瀬の幼馴染3人の関係が、物語の最初と最後に強調されている以上、ストーリーを考えるのにかなり重要な点です。
 太輔の能力は、『生と死』。心の穴は、両親を死なせた『罪悪感』。反対に広瀬の能力は、『無』。心の穴は、『無力感、劣等感、嫉妬心』でしょうかね。そして両方とも「小さき者」が宿っているようです。両者とも似ているようで、能力は対極。
IMGP4517.jpg 1巻と能力者の不幸な境遇を鑑みると、あっさり片付けられた広瀬の母の死は、広瀬にとって案外大きな効果だったのかもしれません。勝又の洗脳が無くて母の死も無ければ、広瀬もあそこまで虚無感に苛まれることもなかったのかもしれません。まあ勝又は勝又で人類を救おうとしたのでしょうが、人類を滅ぼす要因を一つ増やしてしまったということかね…。
 1巻1話を読み返すと、太輔も広瀬もものすごく変わりました。が、最終巻で互いに憎しみが無くなったのは良かったです。ハッピーエンドらしいハッピーエンドではないのですが、仲たがいしたまま一方が死ぬことにならないで良かったですよ。でも、21巻表紙で描かれているような高校時代の仲良し3人組にはもう戻れない…。人間はいくつもの辛いことを経験し、戻れない日々を過ぎ去って、それでも生きていくことしか出来ないということなのかな。切ない…。21巻表紙をあえてこのようにしたのは、そういう狙いがあったのか?
 
 アライブが連載されているとき、キャッチコピーに『進化するアートワーク!』というのがあったと思いますが、本当に1部は進化する様子がはっきりとわかって、感心しましたよ。まあでも1巻の時でも下手というわけではありませんしね。バランスが崩れているところとか無いし。
 2chをちょっと覗いてみると、あだちとかさんは女性漫画家の中ではトップクラスの作画力がある、と書かれていました。まあ作画力というものは色々種類があると思いますが、少年漫画的・標準的な方向では私もその意見に激しく同意です。わざわざ作画方向性を限定して好きだというのは、少女漫画的な演出を(多分)ほとんど使っていないということが逆に私にとって魅力であり、不必要な要素が無いということを表したかったからです。
 地球上には多くの動物が生息しており「進化」というのがずっと続いていますが、人間というのはその中でもかなり進化の先端にいる種かもしれません。ただの驕りかもしれませんが。
 進化というのは、変異と生存によって新たな環境に適応したり他の種よりも優勢となったりすることによって、自己の遺伝子が残っていくことです。さて、では進化の先端にいる人間が、どうして生存や遺伝子を残すことに不利である、「自殺」なんてものが多くなされているのでしょうか?群れを守る為に率先して犠牲になる動物もいますが、人間の自殺は種のためだとする材料は少なすぎです。
 「生物として高等になればなるほど自殺が増える」という仮説(トンデモかもしれませんが)が正しいのなら、進化の最終地点は「死」になるのではないか?そんな疑問からこの物語が出発したように、私には思えました。
 総評すると、アライブはダークなものを扱ってストーリーと設定に深みがあり、作画もトップレベルの、ものすごく面白い漫画だと思います。広瀬のようなキャラがラスボスになるものは初めて見たし、それ以外にも独創性ある作品でした。ちなみに友達にこの漫画を読ませると、ものすごくハマったようです。
 アニメ化は、もう、無いの?
 
 最後に、42歳という若さでお亡くなりになった原作者・河島正さんに、哀悼と感謝の念を捧げます。
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Posted by YU