さんさん録 感想

さんさん録   作 こうの史代
 漫画アクションで2004年から2006年にかけて連載された全2巻の漫画作品、「さんさん録」についての感想を書いていきますよ。
 主人公は、男やもめの、参平というじいさん。「やもめって何?」と思って調べてみると、『寡婦』のことでした。やもめの文字の由来とかは色々あるようでした。
 亡き妻の残した家事・家族のことについて書かれたノートを見ながら、参平が主夫を頑張るという作品でごぜえます。

さんさん録 (1) (ACTION COMICS) さんさん録 (1) (ACTION COMICS)
(2006/03/11)
こうの 史代

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さんさん録 (2) (ACTION COMICS) さんさん録 (2) (ACTION COMICS)
(2006/06/28)
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1巻
IMGP4094_サイズ変更 さて、1巻ではこれまでずっと家事を妻に任せていて、仕事も定年退職したし趣味も無い、正直このままだとすぐにボケそうな参平が家事に目覚めていく様子が描かれます。妻が死んで感情とか色々が無くなった参平は成り行き上、息子家族の元で一緒に暮らしていくことになります。最初は息子とも孫とも少し仲が悪そうで、本当に今までの参平には「家庭」というものが無かったのだなと思わされます。
 しかし妻の遺した家事ノートを見ながら積極的に「家庭」に参加していくと、段々息子家族の参平への感情がゆっくりと良い方向に向かっているような感じが見受けられましたよ。
 この漫画は1話8Pほどでかなり短いですが、それぞれの話に家事や家庭のこと、季節の事柄が描かれており、ちゃんとオチもついています。切ない感じの余韻が終わる直前まで続いていたとしても、最後の最後で笑いに変えてくれます。まあそのまま良い感じで終わることもありますがね。まあつまり、どの話でも読者はしこりなく読めていけるというわけです。
 後、孫の乃菜のキャラが面白いです。こうの史代さんの作品はまだ「夕凪の町、桜の国」、「この世界の片隅に」しか読んでいないのですが、こういうキャラは初めてです。まだ幼いのに変なところで大人びていたり変な趣味を持っていたり目つきが悪かったり愛想も無かったり…。この子が醸し出す変な雰囲気は、それだけで読者を笑わせてしまいますねw
2巻
IMGP4095_サイズ変更 2巻では参平が家事の基本をほとんどマスターしていて、ちゃんと「主夫」として描かれているような感じがありました。物語は参平の家事よりも息子の家庭のことなどがメインに描かれているように思えました。そして参平と仙川の関係とかも。
 シリアスな場面では含みのある描写が多く、ちゃんと「誰が誰に対してどう思っているか」を逐一把握していきながら読んでいかないと読め解けないときも多いと思います。特に、礼花と仙川の気持ちはなかなか複雑でした。ページを戻って何回も読み直していったほうがいいですね。
 あまり人の心を深く理解できない私の憶測をまとめさせてもらうと…

・参平はおつうを愛していて、仙川に異性として好かれているとはラスト近くまで思っていない。
・礼花は夫からそんなに好かれていないように感じている?
・仙川は最初は詩郎に好意があり、後に参平にも好意?

とまあ一応書いてみましたが、どうせいくら考察しても「微妙な感情」としか表せないんだろうな!いいね、この微妙さ。
 
 すでに亡くなっていてほとんど登場しない、参平の妻・鶴子は意外にこの物語の根幹に位置するような人物だったと思います。参平の回想(?)だけで判断すると、かなり器の大きく母性の溢れる女性だったのでしょう。自分の死後に参平に新しい恋があれば、むしろそれを受け入れてしまうほど。
 ラストページ、参平が「こんな時までにこにこ見てるやつがあるか」と言いますが、やはりそれは鶴子に言っているのでしょう。そしてこの発言は、参平が鶴子を本当に妻として愛しているという証拠でもあるでしょう。もしこの先仙川と良い関係になったとしても、参平は鶴子をないがしろにせず、変わらず愛し続けるのだろうと思います。「愛しているよ」なんて言葉を使わずに、ね。
 全体的に醸し出される日常に潜む意味とか可笑しさとか、やっぱりこうのさんはそういうのを表現するのが他の漫画家さんと比べてかなり上手い部類に入ると思います。そして人間同士の微妙な心遣いとかも。ああ、なんて日本らしいんだ…。
 家事が人の和を醸したり、何の変化も見えないようで実はゆっくりと変わっていく家庭の姿など、そんな一人一人の身近にある「何か」を良い雰囲気でかつ面白く読ませるのが、この漫画の魅力なのかなあなんて思ったりします。 

漫画

Posted by YU