骨の音 感想

骨の音   作 岩明均
 「寄生獣」、「ヒストリエ」などで知られる岩明均さんの短編集、骨の音について感想を書いていきたいと思います。
 単行本自体は1990年刊行ですが、載っている作品は1985年~1990年にかけて描かれたものです。作者のデビュー作から載っているので、単行本内で作画が少し異なっています。まあ、今と少し作画が異なっている作品は最初の二つくらいですがね。それ以降は安定しています。

骨の音―骨の音 (モーニングKC) 骨の音―骨の音 (モーニングKC)
(1990/01)
岩明 均

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 極短編が集まっている、というわけではないので、一つずつ感想を書いていきます。
ゴミの海
 作者のデビュー作。自殺を考えていた男が、自殺候補地で不思議な少女に出会い、後に再会する話です。
 まず、デビュー作なのに今の作柄よりも女性がエロい。なぜだ…、いやまあこの人の漫画に萌えとか色気とかは求めてないから不満はないのですが…。
 少女の言う、「助けて…」の具体的理由は作中に描かれていませんでした。人を傷つけたり傷つけられたりしていたから、そういうことを言ったのかな?まあでも、その理由の内容自体がこの話の根幹ではないから、置いときましょう。
 少女がビルから飛び降りた理由、それは「汚れてしまったから、洗い流す」ことだったのでしょう。海を汚すことを嫌った彼女だからこそ、すでに汚れているコンクリートの海ならゴミ=自分を捨てようとできた?
img081.jpg未完
 この単行本に載っている話の中では一番好きな話です。主人公に魅力あるし、綺麗な余韻がありますし。
 この話でも女性のヌードが出てきます。が、そのヌードとなる女性に、「近親相姦で妊娠して堕胎したが、失敗して生涯子供を生むことが出来なくなった」という過去があるため、彼女はセックスなどをすることにためらいがありません。
 子供を生めない女性と、どうにかして作品を「生命」に近づけようとする彫刻家の対比が素晴らしいです。命を持っているのに自分を「肉の塊」だと言う女性、命なんて宿るはずがないのに無機物を「生命」にしようとする彫刻家なんていう、相反する人物を上手く繋ぎ合わせる物語には、個人的に脱帽。
夢が殺す
 この作品くらいから作画は安定。今と遜色ありません。
 テレパシーの出てくるミステリーな話。設定として面白いけど、作者の主張とかはわからなかったな…。
指輪の日
 少々ワルな女子が主人公の話。
 最初と最後で心構えが変わったのが面白いですね。最初は結婚する姉に反抗的でしたが、最後は姉のためにちょっとは気を遣ってやろうとします。気が変わったのは、指輪を探しているときに、姉との思い出や、姉との別れなんかを考えたからなのでしょうかね。家族というものを再認識し、ちょっと大人な対応をするようになるのが、何とも良い余韻の残る話でした。
img082.jpg和田山
 昔から皆の顔にいたずら書きをしていた和田山が、自分以外が参加している同窓会を襲う話。
 これはものすごく奇妙な話でした。和田山の考えが全く自分には理解できません。ただのキチ○イだというなら話は一応簡単ですが…。
 個人的な話ですが、最も恐ろしい人物とは自分の常識がまるで通じない相手です。この物語ではクラスメイトが和田山に次々と襲われていくシーンはパニックホラーの映画のようであり、そしてその原因自体も得体の知れないものであり、それはホラーのように思えます。この物語は奇妙と言うべきか、ホラーと言うべきか…。
骨の音
 表題作となっているこの話、これだけ書き下ろしのようです。
 付き合っていた人間が変な理由で電車に飛び込み自殺をして、そのときの骨の音が今でも耳に残っている、という過去がわかれば物語に出てくる女性の心理は大体わかります。が、終盤の「お前誰だあ!」と叫ぶシーンは、ちょっと意味がわからなかった…。
 まあでも、命の温かさを最後に女性が知ったので、余韻は良かったのです。

漫画

Posted by YU