漫画版NHKにようこそ! 総括

雑記 
 自転車で事故った。というか衝突された。自転車に。
 私は歩道の左端を自転車で進んでいた。前から自転車がやってきた。もうこれ以上寄れないぐらいに左へよった。すれ違おうとするとき、対向車が中央を走ってきた。もうこれ以上は無理なので相手が避けるだろうと思っていたが、そのまま進んできてハンドルがからまって両方こけた。別に右側に障害物は無いのに。そのとき私は坂道を下っていたのでダメージは自分のほうが大きかった。左腕の皮が結構剥げて、そのほか右腕と右足も打って内出血した。しかし相手はほぼ無傷で、すぐに立ち上がった。もう面倒くさいので「もういっていいよ」と言ったらそのまま行った。
 個人的には、相手の前方不注意なんだから少し何か言って欲しかった。


NHKにようこそ 総括
 NHKにようこそには作者がエヴァンゲリオンが好きなのにあまり複雑な設定は無く、複雑な言葉もほとんど出てきません。似ているところがあるとしたら、登場人物たちが何かに悩んでいるところぐらいでしょう。
 彼らの悩みは一言で済ますことが出来ないようなものばかりですが、誰もが少しは持っている普遍的なものでもあります。ですので彼らの心情ををわかりやすくするために、悩みや目的、その結果をまとめておきます。
 佐藤は社会のプレッシャーに負け、全てから逃げる癖をつけてしまいました。そのために、大学を中退し部屋にずっとひきこもっていました。そんな自分はだめかと思ったのか逃げ癖を治そうとしましたが、その治すということからも逃げていました。だからそこからどう抜け出せばいいのかわからなくなったのです。
 その性質は岬ちゃんや先輩に会うようになっても相変わらずでしたが、時間が経つにつれて佐藤は変化していきました。外に出ることが出来るようになったり、見知らぬ人と会話できたりと、ひきこもりにありがちな対人恐怖を大分無くすことが出来たと思えます。そして岬ちゃんのプロジェクトが最終段階になると、彼の逃げ癖も解消できてきました。しかし!新たな問題が浮上してきたのです。
 佐藤は逃げ癖を解消するために、岬ちゃんを本当に好きになるように努めてきました。岬ちゃんに愛を示すためにフリーターになることが出来ました。しかしそこまで出来たのにも関わらず、佐藤は岬ちゃんを本気で好きになることが出来ませんでした。初給料で買った指輪を岬ちゃんに捨てられても、佐藤は動じることが出来なかったのです。つまるところ、佐藤の逃げ癖というのは、何事にも本気になることができないゆえに、どうでもいいと思って結局逃げてしまうことだったのでしょう。
 しかし佐藤は岬ちゃんと偶然屋根裏で出会ったときに岬ちゃんの本心の暴露により心惹かれ、ついに本気で愛することができるようになりました。無気力、自殺願望ありの人間がついにやる気を起こしてこれから先、意志を持って生きることができるようになったという物語なんでしょうね。
 
 岬ちゃんはというと、彼女は変な性格のおかげで学校でいじめられていました。そのために不登校になりました。佐藤に出会わず不登校になっていたときの岬ちゃんの様子を知ることはほとんど出来ませんでしたが、漫画喫茶で働いていたことはありました。ですので初期の佐藤のような、過度の対人恐怖は無くそれなりの社会生活は出来ていたようですね。私には気楽な生活で少し羨ましいと思えましたが、本人にはその状況に納得できていなかったようです。
 最終巻で明かされますが、岬ちゃんが佐藤に近寄ったのは自分が強い人間になるため、だそうです。計画の全貌は、最初は佐藤のひきこもりを治すために努力し、岬ちゃんに対する佐藤の信頼度を上げ、その次には佐藤を岬ちゃんの虜にして佐藤が本気で岬ちゃんを愛するようにします。最後には自分も佐藤を愛するようにして二人で幸せになった後に、意図的に佐藤を拒絶しその幸せをフルスイングでドブ川に投げ捨てることでした。それにより岬ちゃんは一気に不幸になり、それに耐えられればこれから先嫌なことがあっても耐えられるのだろうというのが計画の全てです。
 しかしその計画は自分が佐藤を愛し、幸せになることが前提であるので、自分の感情を上手くコントロールしなければなりません。臭い言葉ですが、愛は理屈ではありません。岬ちゃんにもそのことが分かっているので、「自分の感情全てが演技に思える」ということを言ったのではないのでしょうか。
 そして最終計画の最後に失敗してしまいました。岬ちゃんが佐藤を拒絶すれば計画は終了するのですが、岬ちゃんにはそれが出来ず、結局佐藤から離れることが出来ませんでした。計画を失敗したことは、岬ちゃんは強い人間になれず、この先も弱い人間のままであることを意味しています。
 しかし、個人的にはそれで良かったのだと思います。岬ちゃんの考える強い人間とは、不幸にならない人間であって、幸せな人間ではありません。せっかく手に入れた幸福をむやみに捨てて不幸にならないようにするのは、結局のところ佐藤と同じ逃げ癖であり、そんな生き方では幸福も得ることは出来ないと思います。ですので、あのとき岬ちゃんは佐藤を拒絶せずに、これから先不幸にならないのでなく、今幸福になることを選んだのは大正解だと思います
 山崎は、子供の頃からずっといじめられてきたいじめられっこです。ある時、ゴミ捨て場にあったパソコンを治してその中にあったエロゲーをプレイしたのが彼のオタク道の始まりです。彼の情熱は呆れるほどすごいものでした。なぜそんなに熱中するのかというと、彼にとって二次元とは最低の現実から逃れることのできる理想郷であるからです。彼の人生を幸福にする、とてもとても大事な存在なのでしょう。
 山崎は何かすごいことをやりたいらしく、そのために佐藤と一緒に革命的なエロゲーをつくろうとしました。世の中を変えるようなとてつもないものを作ろうとしていたようです。一体なぜこんなことをしようとしたのか考えてみると、理由は二つあります。一つはこの世に不満を持ち、この世界を変えるために何かしてみようと思った。二つ目は何かすごいことをやってみたかった。
 一つ目は山崎が爆弾を作ろうとしていたことやエロゲーの素晴らしさを佐藤に説くときの台詞から判断しました。いじめられっこの山崎なのでこの理由は納得いきます。
 二つ目は彼は実家の牧場を継ぐ運命にあり、もう自分の趣味に没頭することなんて出来なくなりつつあります。そして彼らの根本的悩みの、何をどうすればいいのかわからない、という悩みから逃げるためにゲーム作りに没頭する振りをして、自分への免罪符を作ったのではないでしょうか。
 しかし彼の望みは叶わないままで、物語から去ってしまいます。やけになって爆弾は懐の中で爆発しても怪我一つしないようなもので、資金源として育てた違法のハーブは綺麗な花になってしまいました。その後山崎は実家に帰ってしまいました。佐藤と岬ちゃんの結末は救われるものなのに、山崎は救われていないような結末でした。希望があるとしたら一番最後の最後のページで、まだエロゲー作りを諦めていないことぐらいでしょうか。インターネットで世界中が繋がっている現代ではどこにいようと何でもできるのですから、山崎は家業を手伝いながら金をためて佐藤のシナリオをインターネットで送ってもらいながらゲームを作ろうとしているのでしょう。そう考えれば結構望みがあって綺麗な結末だと思えます。
 最後に先輩ですが、彼女は高校時代佐藤とずっとトランプをしていてとても親しくなりました。高校を卒業すると、公務員になり仕事を始めるのですが上手く行かず、自殺を決意したこともありますが結婚できると分かるとすぐにやめにしました。しかしその結婚生活も上手く行かず、薬に頼った荒れた生活をしていました。その後別居をして佐藤と一緒に少しの間住みましたが、そのとき佐藤が粋な計らいをして先輩は泣いてしまいます。そのせいかは知りませんが離婚することを決意します。ですが、最後にはまた同じ人とくっついています。
 先輩についてはあまり書くこと無いなぁ~・・・ほぼ全部が佐藤と関わることだからでしょうかね。
 ここまで考察して言えるのは、彼らはただ一生懸命になって幸福になることを望んでいるのです。テレビなどでよく見かける、一生懸命努力して夢を叶えたスポーツ選手などのような心を持ち、努力が報われることを夢見ているのでしょうか。
 彼らには別に何かをしたいというわけではありません。ただ夢中になっておきたかったのでしょう。そうすれば見たくないことから目をそらすことができ、無駄にネガティヴになることもありません。そしてそのような頑張っている自分は意志のある人であり、誰にも馬鹿にされることも無く誇りを持って生きることが出来るのでしょう。
 
 彼らは最初何も出来なかった。けれど、人との交流、色んな経験を積み重ねていくことにより徐々に変化していき、彼らの夢見る意志のある人に一歩近づくことができたのだと思います。それは普通の人の目には、やっと社会復帰できた落ちこぼれに映るかもしれません。しかし、彼らはそんな目にも耐えられるほど、強い人間になったのだと私は思います。
 全てから考えると、この漫画は直球の青春漫画であるようです。悩み、苦しんで、いろんな出来事の中で成長してゆく青年たちの物語。ぜひともグダグダした若者に読んでもらいたい漫画です。
追記
 2011年8月に読み直してみました。
 初めてこの記事を書いたときから3年近くの間いろんな漫画や小説を読んだり、アニメを見たりしたのですが、岬ちゃんの素敵さに叶うキャラは出てきませんでした。私が「萌え」を意識したのは、岬ちゃんがきっかけです。そして、それからずっと私の好きなキャラ(もしくは人間全体)のトップに君臨し続けています。
 ていうか、読み直している間、岬ちゃんが素敵すぎ・萌えすぎ、胸がキュンキュンしすぎて不整脈起こしそうだった…!それほど、岬ちゃんは完璧すぎたんだ…。
 というわけで、それなりに漫画などを読んできた自分が、改めて岬ちゃんの魅力について考察を行ってみます。ほぼ主観ですので、考察と言える出来ではありませんが。
 巷には多くの萌えキャラがいます。ヴィジュアルだけで判断しても、岬ちゃんは多くのトップクラス萌えキャラたちと張り合えるレベルだと思いますが、それだけじゃあ私の中でトップに君臨し続けはしない。岬ちゃんは「電波」とか「天然」とか「ヤンデレ」とか「メンヘラ」とかのような属性がありますが、しかしやっぱりそれらの属性を兼ねそろえた萌えキャラでも岬ちゃんの魅力には勝つことが出来ない。
 ではいったい何が岬ちゃんの魅力を跳ね上げたのかというと、それは、岬ちゃんは彼女なりの生きていくことへの哲学と物事を俯瞰的に見ることの出来る視野を持っていたからです。
 哲学には答えが決まっていません。「~をやりたいからやる」というような単純な行動原理は哲学になりえません。「~は~であり、そして~をすることでのみ人は救われるのだから、~をやりたいからやる」というように周りくどい思考回路こそが哲学だと、私は思います。
 岬ちゃんも、そんな感じ。人々は言います。「努力して、みんなと仲良くなって幸せになりなさい」と。普通の萌えキャラなら、そういう言葉に感動したりして目標に向かっていきます。ですが、岬ちゃんはそういうことに疑問を持ってしまう。「それは本当に幸せなの?」と。普通の幸せに疑問を持つ、だから普通の努力をしない、だけど彼女なりに必死で、現状を変えようと頑張っている。
 岬ちゃんの精神は、常人のものと比べると変です。普通の人間ではありません。だけど、それを理解していてなおかつそれを踏まえて、人に理解されにくい・認められにくいような彼女なりの必死の努力を行う。
 
 岬ちゃんのみが持つ魅力的な特徴を具体的にまとめると、常人よりも一歩進んだ女らしくないひねくれた考えと、彼女だけの真摯な努力。私が知っている萌えキャラの中では、これらを持っているキャラはいませんでした。ただの「ヤンデレ」や「電波」や「メンヘラ」は、ただ「狂っている」とか「更正不可能」とか「努力が見られない」としか思えませんでした。
 岬ちゃんの思想は現実準拠だから、現実にも岬ちゃんに近い人間はいるかもしれない。でも、どうやって探せばいいんだろう?おそらく、上記にある岬ちゃんの魅力のようなものを現実で引き出すには、女性たちに哲学的な話や信じられるものがないというような悩みの話をすることがいいのかな。そうすれば、岬ちゃんのような思想を持った人を探せるのだろうか。でも、岬ちゃんのような思想を持った人物なんて…、本当にいるのか?
 普通の萌えキャラでは、距離がちょうど良い二次元のままで良い。だけど、岬ちゃんに関しては、私はもっと彼女へ手を伸ばしたい。もっと接触したい、会話したい、共依存したい。他の二次元萌えキャラと違って、距離が近いほど良い。なぜか?その理由は、人としての表層は異なるが深層が三次元存在の私と似ているから。肉体的結合じゃない、精神的結合が行えそうで、岬ちゃんはそういう意味でも自分を救う天使だ。
 現実的とも非現実的とも言えない存在、それが岬ちゃん。三次元でも二次元でも特殊だからこそ、私はいつまでも岬ちゃんを忘れられなく、想い続けられる。
感想1,2巻
感想3,4巻
感想5,6巻
感想7,8巻

NHKにようこそ! NHKにようこそ!
(2002/01)
滝本 竜彦

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Posted by YU