ハルシオン・ランチ 感想
ハルシオン・ランチ 作 沙村広明
「無限の住人」で有名な沙村広明さんが描いた全2巻の漫画、「ハルシオン・ランチ」についての感想を書いていきます。ていうか私、無限の住人読んだこと無いよ…。ブラッドハーレーの馬車は読んだけど。
この作品は基本的にギャグ(?)なので、安心して読めていけます。沙村さんの描く漫画は漫画として面白いものが多いですが、耐性が無いときつい箇所とかあるから、そういう意味ではむしろこっち系のほうが万人受けする?
ハルシオン・ランチ 1 (アフタヌーンKC) (2010/03/05) 沙村 広明 |
ハルシオン・ランチ(2) <完> (アフタヌーンKC) (2011/09/07) 沙村 広明 |
1巻
開始して1P目から、主人公の名前「化野元(あだしのげん)」というように、初っ端から「はだしの元」のパロをやりやがっています。ていうかこの作品、パロディがアホみたいに多いです。突っ込みが全く追いつきません。芸能・スポーツ関係以外のことについては多くの知識を持っていると自負していた私ですが、沙村さんには勝てなかったよ…。(でも勝たなくて良かったかも)
1巻での特に好きなパロは、「初号機のマネをしながら八戸線の駅名を唱える進次」と「アスキー犬」かな。後、モザイクトーンが無くなったから代わりに地球のトーン(?)を使用しているところとかも好きです。色々、混ぜたらダメなものが混ざっていて、カオス過ぎるよ!
一応ちゃんとストーリーもあって、何でも食べたり混ぜたりすることの出来るヒヨスが、ホームレスになりかけのおっさんの元にやってきて、会社再建とか生きるために頑張る、というような感じです。そしてその途中でヒヨスの正体が少しずつ明らかになっていく、という構成です。
まあそういうシリアスな雰囲気になる箇所はほんの少しで、大部分は変な笑いをしながらテンポ良くかつ軽く楽しめていけます。沙村さんの頭の中身とか、性癖が明らかになりながら…
2巻
2巻で最終巻ですが、最終話以外の話が着々と最終回に向かっているかというとそうでもなく、やっぱり微妙に繋がっているだけの1話完結型の話が続いていました。
やっぱり基本ギャグとかコメディとかのような言葉で表される物語ですが、元の養女が体現化される「デッドリンガー」、北朝鮮っぽい国が舞台の「リップスノーター」、最終話「エバーボミター」はそれなりに余韻のある良い雰囲気でした。
デッドリンガーは、元の安芸良に対する想いとヒヨスへ抱く想いが複雑で、最終話に微妙に繋がるのが良い感じ。リップスノーターは、独裁者の人民への責任とか、トリアゾの進次への思いが良かったです。
最終話では一気にヒヨスやトリアゾなどのデバイス人形の存在意義などが説明されていって、一気に本格SFっぽくなりました。でもどんなにトリアゾのような登場人物がシリアスに説明しようとしていても、その裏側でアホみたいなことが起こったり雰囲気ぶち壊れたりしますので、にやにや笑いがとまらねえです!
ラスト3Pほどは静かで安寧のある雰囲気で、余韻が心地良いです。安芸良として生きているヒヨスと元たち、他の登場人物たちが食事をしている辺り、やはりこの漫画は「食事」にかなりの重きを置いていたということがわかり、食事の持つ意味とかを何となく考えさせられた感じで終わってしまいましたね。
総括
この漫画のテンポ、パロディ、作画、ギャグのキレ、吐瀉シーンの多さとかについてはまあ色々言及したいわけですが、そういうのは他の感想サイトでも言われまくっていますし、ここでどんなにそれらの素晴らしさを考察したって、「とりあえず読まんかい」の一言で終わりそうなので、あえて「ハルシオン・ランチと食事」についての総括をやっていきたいと思います。
2巻最後での作者の言葉にあるように、この作品は絵本「くいしんぼうのあおむしくん」に対するオマージュ的な作品であるようです。その絵本は、最終的にあおむしくんが地球上の全てを食い尽くして宇宙へ旅立っていくそうです。作者はその寂寥感に感銘を受けたようですが、その感動は具体的にどのようなハルシオンランチに関わっているのでしょうか。
「何でも食べることが出来る」という能力はヒヨスが持っており、「食い尽くすと別の場所へ旅立っていく」というのは宇宙生物たちの行動理念となっています。絵本同様にこの作品でも「あおむしくん」が主人公であるならば、もしかしてこの作品の主人公はヒヨスなど宇宙生物たちだったのかな?しかし各話のオチとか流れとかを思い返すと、マクロ的解釈でなければ宇宙生物たちが主人公とは断定出来ないと思いましたよ。
というわけで発想の転換をしてみると、このハルシオンランチの主人公は「食事」とかそういう行為だったのかな、なんていうぶっ飛んだ仮説を立ててみます。食事とは言うまでも無く全ての生物が行っていることで、私たち人間にもものすごく関わる超重要な行為であります。食らうことで対象物を破壊し、自分の命を繋ぐ。そして新しい何かが生み出されていく、というわけです。
人間は何かを摂取するとそのエネルギーなどを吸収して、大便や小便を排泄し、得たエネルギーをゆるやかに放出します。そういうような一連の流れをマクロ的解釈しますと、「何かを得て、変換し、別の何かを生み出す」ということになります。ヒヨスが食べてゲロを吐いて新しい何かを生み出したりするのも、もしかしたらそういうことなのかな?
しかし「くいしんぼうのあおむしくん」には、食べた後に何かを生み出すようなことが示されていなかったと思います。そしてこの作品は、最終的に大団円な感じで終わっています。ということはこのハルシオンランチは、作者なりの「くいしんぼうのあおむしくん」が食うだけで終わらなかったIfストーリーもしくは「回答」というような言葉で表されるものだったのかな~なんてつらつらと考えてしまいました。
ただの不条理ギャグ漫画に色々考えなくても良いのだろうけど、最後の「ごちそうさま」のセリフを見ると、やっぱり考えたくなってしまったのです。
ああそういえば、結局のところ「ハルシオン・ランチ」の意味の真相がわからなかったです。ハルシオンと言えば睡眠薬で有名ですが、オーバードーズするとやばいものです。だからと言って、何なんだ?