長い道 感想

2020年5月14日

長い道   作 こうの史代
 2001年から2004年にかけて「すてきな主婦たち」で連載されていた、長い道の感想を書きます。
 54もの小さな物語を、一つ3,4Pで描いていっているのが特徴です。ほとんどの編で主人公二人の深い感情を描きながらも、ちゃんと最後は笑えるように、オチています。

長い道 (Action comics) 長い道 (Action comics)
(2005/07/28)
こうの 史代

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IMGP4260.jpg あらすじは、浮気性・甲斐性無しの荘介に、道という女性がいきなり妻となり、同棲を始めるという感じです。
 あらすじだけ見ればうる星やつらが代表とする「押しかけ女房もの」っぽいでしょうが、読んでいくと少し違うように思えます。(最初は)荘介は好きなタイプでない道と暮らすのが嫌で、すぐに別れようとしています。道は積極的に別れようとしたりはしないのですが、荘介の要望によっては別れることも厭わない、という感じです。道に関しては、最初から荘介のことをずっと愛していたかどうかがよくわかりません。荘介の感情はわかりやすいのですが。
 道には竹林賢二という付き合っていた(?)男性がいたようです。その人のことは今でも「好き」で、彼の幸せを祈っているようです。まあその「好き」っていうのは、普通の一夫一妻の男女の愛とか、そういうのではない感じです。しっかし…「好きな人がいた町だから、そこに住む人もきっと良い人だ」という考えで荘介の元にやってきたことは、驚きです。本当に?本当にそれだけなのか?と勘繰ってしまいます。 
 この漫画は読者層が女性ばかりだと思われる「すてきな主婦たち」で連載されていたようですが、男がふらふらしていて女が離れていかない漫画を読んで、読者は不快感を持ったりはしなかったのだろうか?と勝手に心配してしまいます。
 男性誌では女が浮気性で、それでも男が離れようとしないようなものはほとんど無いかと思われます。ちょっと違うかもしれませんが、「かんなぎ騒動」とかを思い返せば私の疑問もわかっていただけるんじゃないかと思います。男と女は違うのか?この漫画だから大丈夫なのか?
IMGP4259.jpg 浮気性の荘介が、ゆっくりと道と『夫婦』になっていく様子を見るのは、ほんわかします。離婚届を提出しようとする話で、コートのポケットに離婚届を入れて道行く女性(正体は道だったけど)にそのままコートを貸そうとしたのは故意だったのか?など、道を愛しつつあるのではないかということを考えさせられるシーンを、3,4pの物語の中に多く含んでいます。
 物語が進むにつれて、荘介の道への態度が軟化しているのが見受けられます。ラスト2話では道への愛がほぼ決定的となっています。最後の最後なんかにゃあ、「わかるよ、もう長い付き合いなんだから」なんて言っていますからね。夫婦のする会話じゃないか!
 荘介とは対照的に、道の荘介に対する態度はほぼ不変です。そういうところに女性の強さを感じるのは、私が男だからでしょうか?
 基本的に、この漫画はコメディです。ただの押しかけ女房ものとは違う、奇妙な夫婦関係の中で起こる様々な日常風景が、面白おかしく描かれています。そしてその面白おかしい物語の中に、キャラの深い感情が含まれています。
 が、一つ一つの物語の終わりは、シリアスな部分を隠すかのように『笑い』で締められています。これはこうの史代作品でよく見られる構成です。
 読者にとっては、シリアスな部分に注目すればいいのか、笑いに注目すればいいのか、一瞬迷います。が、考えてみれば、普通に「両方楽しむ」で良いのではないかとも思います。そして私たちは、日常の中にある軽いものと深いものの両方を楽しんで行けばいいのかな、なんて言葉でこの記事も締めさせて頂きます。

漫画

Posted by YU