ぼくらの10,11巻 感想&総括

雑記
 最近、男女共に草食系がデフォルトになってきたのか、クリスマスを恋人と一緒に過ごさないことが普通、のような風潮になってきているような感じを受けます。
 まあバブル時代のような商業主義にまみれたクリスマスが無くなりつつあるのは個人的に歓迎ですが、この先どうなるんだろう。

ぼくらの 10 (IKKI COMIX) ぼくらの 10 (IKKI COMIX)
(2009/01/30)
鬼頭 莫宏

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ぼくらの 11 (IKKI COMIX) ぼくらの 11 (IKKI COMIX)
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鬼頭 莫宏

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10巻

IMGP4635.jpg 登場人物紹介の中で、生存者が町と宇白だけになっているこの10巻。
 町の再契約へと至った心情の変化には、なかなか深いものがあるかと思われます。「やっとあたし、楽になれた」と言っていますが、これは住んでいた地球が救われたことに言ったのではなく、この地球のために戦って死ねることに対して言っているのでしょう。
 「楽になれた」ということは、今まで苦しんでいたのでしょうか。元いた地球の人たちが戦って死んで、自分が生き残っていたことに?この地球を守りたいと思っても、パイロットになれなかったもどかしさに?いや、もしかしたら両方かもしれません。だって今までずっと、戦って死んだ人々を見てきたわけですから。残される人と、消える人、両方とも苦しむということでしょうかね…。
 
 町と宇白はパイロットたちの家族に会いに行きます。ああやはり、この漫画は「世界を救う」よりも「家族を守る」ことが、パイロットがジアースに乗る意義となっているのでしょうね。
 『なるたる』にも家族愛がありましたし、改めて『家族』というものを考えると、よくわからないものです。家族の中でも表面的な諍いがあったり色々ありますが、何か一体感のようなものがあります。そういう一体感を抽象的言葉で言い換えると、それは、「ぼくらの」になるのかも。
 いきなり町が殺されるのは衝撃的です。ものすごくあっけない。ちょっと前にいちゃいちゃしておったのに…。こんなのってありかよ!
 コエムシの動揺っぷりと『処理』が、かなりクルものがあります。一番最初は、コエムシは得体の知れないゲームマスターのような印象がありましたが、やはり彼も運命に翻弄される存在だったってわけですかね。でも、家族について読者に何かを感じさせた後に、家族が家族を処理するシーンを持ってくるとは…やっぱ作者の鬼頭さんはドS過ぎるわ。
 

11巻

IMGP4636.jpg 11巻、物語の終わりです。
 宇白の戦い。今まで自分の命を犠牲にしてこの地球を守る意義などを描いてきたこの漫画ですが、その意義を逆手に取ったとも言えるこの戦い方は何とも…悲劇です。
 宇白にはすでに実の母親も、義理の妹もいません。義理の父親はいますが。好きだと言った町も、友達のカンジも、みんな死んでしまいました。そんな彼には、他のパイロットたちのような、強い「家族を守る」という意志は少ないかもしれません。しかし宇白は、「他の一人一人も家族はいるんだ、そういう人を守ろう」というような気持ちで、改めて契約しました。今まで死んで行った人々への責任だけで戦うのなら、まだ楽だったのに…。
 そんな彼が、敵方とは言え、ほぼ全ての人間を殺して自分たちの地球を守る、という結果に至ってしまうのは、皮肉すぎますよ…。自分の地球にいる見知らぬ人々と、敵方の人間たちは、何が違うのか?宇白本人にとっては両方同じようなものです。そんな葛藤があるから、他のパイロットは「自分の家族を守る」というような感じだったのに、宇白の家族はすでにほとんど死んでしまっているし…。自分の地球を守る理由がそのまま、相手を消すことの戸惑いとなり、そしてそれを実行する…精神ぶっ壊れるぞ。
 ラスト、今までサポートしてきたコエムシが、契約して次の地球の引き継ぎ役となります。もちろん、元の地球に帰ることも出来たはず。
 彼の心情は、この漫画のラストを飾るにふさわしいものだと思います。考察は、総括で↓

総括

 この漫画は巨大ロボットの戦いとパイロットの葛藤を描いていますが、まずは巨大ロボットたちの感想から。
 自機であるジアースの全高は、なんと500m。ガンダムとかとは桁が違うかと思われます。そういう超巨大ロボが街中で戦ったりするシーンは、巨大さが半端無いです。普通のマンションとかが、ジアースの指先レベルの大きさですからね。何も知らない人間たちから見れば、まさに神と神の戦いのようにも見えるかと。
 後、たまに出てくる個性的な敵がかなり個性的だったりで面白いです。特にカンジのジャベリン戦は秀逸。敵の戦いかただけでもすごいのに、その結末も圧倒的。よくこんなの考えられるな。
IMGP4637.jpg 1巻では、「地球を守るヒーローもの」のような感じの漫画でしたね。実際最初のパイロットであるワクも、そういう感覚で相手を倒しました。
 が、戦闘が進むにつれてあかされる様々な設定。それらはパイロットたちに多くの苦悩と選択を与え、戦いに複雑な理由を強いることになります。自分が死んでしまえば主観的世界は失われるため、世界を守るというものは理由になることは難しいです。だから、各々が何とかして戦う理由を見つけ、自分の命を犠牲にしていく…。
 自暴自棄になる加古とか復讐を果たそうとする千鶴、世界を守ることに強い意義を見出せない切江など、パイロット全員それぞれ戦う理由は異なっており、出来る限り多くの人間の「そういう状況なら」を表しているようでした。自分が世界の命運に関わっているなんて、所謂『セカイ系』の直球ものですが、ここまでやると感心します。ゲームを仕組んでる神のような存在も登場しないし。
 ラストにコエムシがパイロットとなり戦う理由も描かれますが、それが最初のワクとほぼ同じというのが物語の構成としてかなり上手いものだと思いました。まさか一周してくるなんてね、状況的にも心情的にも。まあ螺旋階段を登るように、高さは違うのですが。
 巨大ロボットに乗って仲間を救う、だなんてかなり単純で子供っぽいです。だけど全てを知った上でもう一度そこにたどり着くのは、ものすごく深いように思えます。彼が戦うに至った理由は、妹の町や宇白に似ているかと思います。いや、全員の戦いがあったからか。
 ラストに「男の子の夢」という言葉も登場します。ああ確かに、男の子(女の子も?)にとって巨大ロボットに乗って敵を倒し地球を守るということは、ものすごくやりたいことですね。やるべきことでもありやりたいことでもあるようなことなら、やるしかないでしょう。
 最初は、この漫画はそういう「男の子の夢」に対する皮肉とかアンチテーゼのようなものだと思っていたのですが、一周して礼賛になっているのかもしれません。
 本気で考えれば奈落の底まで落ちてしまうほどの難しい選択を、無理やり単純に考え、そして運命に翻弄されて消えていく子供たち。死にたくないとあがきながらも、決して逃れることの出来ない状況下で、ベストを尽くす。
 単に一人一人の戦う理由を描くだけではなく、迷う様子も描いているっていうのが、この漫画の完成度と面白さに貢献していたと私は思います。 
1~3巻
4~6巻
7~9巻

漫画

Posted by YU