なつのロケット 感想
雑記
大人になるには、どこかで折り合いをつけなければならない。
という思想があるが、絶対にそうであるとは限らない。
むしろ、そんな思想が自由な発想を妨げ、斬新で新しいことを試みることが出来なくなる可能性がある。
夢追い人は「生きる」ことが目的ではなく、「夢を追う」ことが目的だ。
生きているだけならゾウリムシだって出来る。
他人に迷惑をかけなければ、何やってもいいだろ。
なつのロケット
ヤングアニマルで連載していた、あさりよしとおさん作「なつのロケット」についての感想を書きます。
ロケット好きで科学的知識も豊富で、「まんがサイエンス」で有名なあさりよしとおさんの漫画なので、この漫画では小学生レベルからマニアレベルまでのロケット知識が描かれています。知識のない人が読めば「そうなのか！」と簡単に理解できるように描かれているし、知識のある人が読めば「そうだよね♪」と共感しながら読めると思います。
この漫画は短編漫画で、たった1巻で終わります。ページ数もそれなりしかないので、この漫画の中の登場人物の夢の壮大さにしてはページ数が短く感じられるかもしれません。が、短いからこそものすごくきれいにまとまっています。
王道展開、キャラですが、ほとんど「ありきたり」を感じさせません。斬新なストーリー、とも言えないのですが、この漫画にはこの漫画しかない魅力があると言えると思います。
この漫画は、小学生が本物のロケットを作る、というのがメインストーリーとなっています。が、それ以外にも社会と折り合いがつけられなくなった先生のストーリーや、戦時中にロケット弾の開発をしていたおじさんのストーリーなど、「夢」が絡んでくるサブストーリーもいくつか出てきます。
科学って、文学などに比べると夢などのような抽象的な概念が関わってこないような印象を持つ人もいるかもしれませんが、そんなことは一切ありません。科学は、夢なんですよ。もしくは夢の産物です。
「小学生がロケットを作れるわけが無い！」などと凝り固まっている大人の認識を改め、しかもそのロケットが衛星軌道までたどり着く「本物のロケット」ですからね。大人にとっては天地がひっくりかえるような出来事ですよ。
実際にこんな小学生がいたら、将来は絶対全員が世界レベルのロケット学者になっているでしょう。しかし、「こんな小学生がいるわけない！」ともなぜか思えないんですよね。現実でもアメリカの高校生がロケットを打ち上げたりすることがあるらしいので、大人が手伝えば小学生も本物のロケットを打ち上げることが出来るのかも。まあ、この「大人が手伝えば」というのが難関なのですがね。この問題が克服できれば、日本にももっと多くの「天才」が生まれてくるかもしれないのに。
この漫画では最初、「小学生にしてはよく飛ぶロケット」を作っているかと思っていましたが、本当は衛星軌道に乗る「人工衛星」を作っていたことが判明したときは、鳥肌ものでしたよ。
ラストシーン、主人公達が「打ち上げた人工衛星は今どこにあるんだ！？」という問いに、数学の天才が「今、真上」と言います。人間にしては途方もなく遠い宇宙に打ち上げた人工衛星が、今、地上と繋がっている。あとがきにも書いてありましたが、「宇宙はいつも、今、真上」。見上げればどこでもいつでも私たちは宇宙と繋がることが出来ます。漫画「プラネテス」のように、宇宙を日常的なリアルとして感じることができました。
物語が終わったあと、「夏休みの工作に、本物のロケット作ろう」という題名で本書に出てきたロケットの解説が出てきます。このあとがきのおかげで、読んだ後の感動が軟着陸してくれません。ものすごく、「ロケット作りたい！」という気持ちが出てきて収まらない。あー、やばい。ロケット作りてえ！
物語の整合性や現実との関係性など、全てが美しいと思えるほど巧みに物語が作られています。この漫画は、子供だけでなく大人たちも、もしくは全人類に読んでもらいたいと思えるほどの傑作漫画であると、私は思います。
この記事を書くにあたって、「なつのロケット」についてググったのですが、少し前にどこかで見た、「北海道でロケットの打ち上げ失敗」が、実はこの漫画に出てくるロケットだったことが判明して、ものすごくびっくりしましたよ。実際に作っていたなんて！
ちなみにロケット打ち上げ失敗の記事は、科学ニュースさんの記事で読めて、そのロケット製作の開発者チームの名前が、「なつのロケット団」であることは、このニュースで読むことが出来ます。
夢のある科学者の行動力には、脱帽せざるを得ませんね。漫画のあとがきで、「ミニマムなロケットの簡単な案を出すと「いますぐ作ろう」という人がいた」と書いてあったのですが、本当に作るとは…。
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なつのロケット (Jets comics) (2001/07) あさり よしとお |