PLUTO7,8巻 感想&総括

雑記
 漫画の総記事数が100を突破しとるがな!


7巻
img008.jpg ゲジヒト亡き世界で、最後のスーパーロボットがプルートゥに破壊されます。プルートゥ、アブラー、サハド、ボラーの関係が明らかになってくる中、アトムは目覚めます。
 プルートゥはサハドであり、サハドは父の憎しみを糧に世界に復讐していました。が、その憎しみはおそらく自分の望んだものではないのでしょう。
 「僕を助けて…」、「殺せ…、殺してくれ…」。サハドは、憎しみに操られた自分が死ぬことによって憎しみから解放されようとしたのでしょうか。憎しみという感情を持ちたくない、だけど持たざるを得ない、生きている限り。
 憎しみの連鎖は続きます。ゲジヒト、エプシロン達の悲しみや憎しみを受け継いでアトムは目覚めます。そして、家族や国を壊された憎しみを持ったアブラーやサハドが、アトムと戦うことになるのでしょう。
8巻
img009.jpg とびきりの憎悪を持った最高の知能を持つロボットが生み出したのは、地球を破壊する反陽子爆弾。憎しみを持ったアトムが反陽子爆弾の式を完成させたということは、憎悪を持つロボットであるアブラー・ゴジがこの爆弾を作り上げていることを示唆しているのでしょうね。
 物語は、世界最高のロボットを破壊する事件から地球を破壊する事件に変わりました。物語の結末は、人類史上最大の危機。まさに「ラスト」な感じです。
 
 事件の全てが明らかになりましたが、結局黒幕はアメリカっぽい国のトラキア合衆国であり、ロボットの世界を作り上げようとしたトラキアのマザーコンピュータだったのでしょうか。
 世界のリーダーを自負するトラキアは、世界各国のロボット技術からは遅れていました。「このままでは一番強力な国になれない」と考えたトラキアの大統領にマザーコンピュータが知恵を貸したのでしょう。「まず最も強力なロボット軍団を持つペルシアに言いがかりをつけて戦争し、世界中のスーパーロボットを参戦させる。ペルシアはスーパーロボットを憎み、破壊しようとする。そうすれば世界のパワーバランスは崩れ、トラキアは相対的に国際社会で強い発言力を持てるようになる」と。
 しかし本当のマザーコンピュータの考えは、「戦争で疲弊させたり地球を破壊するような爆弾を作らせて、人間のほとんどを排除し、ロボットの社会を作り上げる」ことが目的のようでした。
 この物語は、憎しみが原動力のようです。憎しみは世代を超えて連鎖してしき、いつまでたっても憎しみから解放されることは無い…。アブラーもゴジもサハドもボラーもゲジヒトも他のスーパーロボットも…、誰だって悲しみたくもないし憎しみたくもないし死にたくもないのに、そうせざるを得なくなっていました。
 トラキアのマザーコンピュータも人間を憎んでいたのでしょうか。そして、その憎しみの原因が人間達であり、その人間達の憎しみも他の何かの憎しみが原因となっていたりするのでしょうか。アトムは最後にこう言っていました。

「憎しみからは何も生まれない…、憎しみがなくなる日はやってきますか?」

 憎しみが無くなり争いが無くなる日、そんな日がやってくるのを私たちは願うことしか出来ません。
総括
 全体を見ると、この漫画は「憎しみ」をテーマにしているのであって「ロボットの心」ではないように思えます。もしロボットの心がテーマなら、序盤からロボットの感情を表現しまくることはなかったでしょう、多分。
 でもまあ正直、「ロボットなのに感情を持つ」ということが驚きであり面白みであるのに、最初からロボットが人間のように感情を持っていては、ロボットが感情を表現してもあまり感動できないような…。作中でよく「ロボットははっきりと物事を言い抽象的なことを言わない」とか「ロボットは冷静だ」とか言っていたのに、出てくるロボットのほとんどが人間とほぼ変わらない言動になっています。なので、ぶっちゃけるとこの漫画ではあまり「ロボットらしさ」を感じることが出来なかったなあ…
 人間にいくら裏切られたり傷つけられたりしても、忠実に人間に従うロボットこそがロボットらしく、またロボットの悲しみなどを読者が感じることが出来ると思います。そりゃまあロボットが人間に近づけば人間のような感情や言動をしてもいいでしょう、が、そうするのならばロボットの人間への成長前と成長後を対比させるようなロボットの言動の変化や演出があったほうがよかったかなと思います。
 上記のことはありますが、物語の謎だけを追っていればこの漫画はやはり面白いです。終盤まではゲジヒトが主人公になっていますが、ゲジヒトが追う事件の謎だけでなく彼の過去にも謎があったりして、読んでいるときは「どうなるんだろうか!?」と興味津々でしたよ。
 ゲジヒトは過去に子供のロボットを引き取りましたが、そのロボットが誘拐されて破壊され、彼は犯人が人間だというのに撃ち殺してしまいます。そんな事件があったのでユーロポールは彼の記憶を消してしまったのです。ゲジヒトの一連の過去は小出しにされて、少しだけ示唆していくようなストーリー構成なので、全てを理解してから読み返すといろんなことがわかって面白いです。
 思えば、ゲジヒトが、彼が殺した犯人の弟に狙われるというのも憎しみの連鎖でしたね…。ゲジヒトは誘拐事件の犯人を憎んで殺し、そして犯人の弟は兄を殺したゲジヒトを憎みました。ゲジヒトは最後にこう言い残します。

「憎悪からは…何も…生まれないよ…」

 ゲジヒトも人を憎み、殺しましたが、彼がそれで得るものはなかったのでしょう。憎しみはただ「消費」するだけで、新しい幸せなどを生むことは決してありません。ゲジヒトは憎しみの無意味さを知っていたから、相手にさらなる憎しみを植えないためにも、子供のロボットに抵抗することなく撃ち殺された、と考えることも出来ます…。
 人間に、そしてロボットにすら伝染していってしまう憎悪。いつかやってくるであろうロボットのいる未来では、無事に憎しみの連鎖を断ち切ることが出来た社会になっているのでしょうか?
 手塚治虫が抱いた美しい未来を、私たちは作り上げることは出来るのでしょうか。
1~3巻 感想
4~6巻 感想

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最後に、わからなかったところを書き記しておきます。
・1巻の「ビルからビルへ飛び移る人間」は誰?
・ブラウ1589はどうして人間を憎んで殺したのか?

漫画

Posted by YU