雪の峠・剣の舞 感想
これまで私は「寄生獣」、「ヒストリエ」といった岩明均先生の作品を読んできました。
岩明先生の作品はこの二作品しか読んでいませんが、二作品ともすばらしい出来で、私は一気にファンになりました。それからネットで他の漫画を探していくうちに見つかったのが、この「雪の峠・剣の舞」でした。
では前置きはこのぐらいにして、感想を書いていきます。
雪の峠
剣の舞もですが、この話は歴史物語です。つまり登場人物は実在していたようです。かといってこの漫画全部が史実に基づくかどうかは私にはわかりませんが。
あらすじは、400年前ごろ日本が東西に分かれたとき、佐竹家当主が独断(?)で西につき、領地を追われたところから始まります。みなさん400年前ごろ、すなわち西暦1600年ごろに何があったかご存知ですか?わかりますよね。関が原の戦いがありましたよね。そのときから江戸時代が始まり、何百年も続きました。つまり何百年も平和が続いたわけです。関が原の戦いで平和な社会と戦が続いた社会とに分けたという事になります。そのことを踏まえて読んでいくと、この話はわかりやすく捉えることが出来るでしょうね。
まず、この漫画には二つの陣営が出てきます。ひとつは佐竹家当主の陣営、もうひとつは戦国の世の中を生き抜いてきた家老たち。前者はもう戦は無くなり太平の世が続くと見切っており、後者はまだ戦は続くだろう(まだ戦がしたい)と思っています。言うまでも無く、この二つはすれ違いがあります。そのすれ違いから、戦をすることになります。
この漫画は主人公たちが当主側に見えますが、どっちが正義かは私にはいえません。確かに当主側はこれから太平の世が来ると見切り、事実何百年も平和であったのは否定しません。しかしずっと戦が続いてきたということで、これから太平の世が来るなんて信じられない家老側の考えはわかります。彼らは根っからの武士であり、これから商人になれなんて言われてもプライドが許さないでしょう。自分たちの思い通りにいかないと少し過激になってしまう彼らですが、これらのことを考えるとそうしたのもうなづけます。
結局家老たちは殺されます。謀反を起こそうとしたという罪状で。・・・嗚呼、時代の節目というのはいつも切ないですね。節目では古いものを切り捨て、新しいものを受け入れることによって新しい時代が始まります。全ては変化し続けていく無常の世の中だと実感しましたよ。
そして当主側の計画通り、城下町と港町が道路でつながり、商業を重視した都市計画は遂行されていきます。計画で最初に考えられていたとおり、最終的に二つの町はつながり、ひとつに―。
そう、そのひとつの町が現在の秋田市なのです!私は驚きました。まずひとつには、400年も前の計画が最終的に完成することになったことを。あんなに昔の出来事が現代に直接関係することになったという事実に私は驚きを隠せません。そしてふたつめは、ありふれているようなものにちゃんとした歴史があるということです。全てのものに歴史あり、というのは頭で分かっていましたが、ここまで実感することは出来ていませんでした。それを今、漫画で実感できてしまいました。そして最後のページ、渋江内膳の墓を載せたことによって、この物語はすでに完結している過去の歴史だということも感じました。
歴史というのは奥深いですね。しかし、考えました。これらの歴史は自然に起こったのではなく、人が起こしたことを。彼らはそれぞれの信念を持ち、それぞれの正義を生きた。この漫画で私は彼らの信念のぶつけあいである戦を垣間見ることが出来た。
歴史というのは人の積み重ね。だからこそ奥深く、そして私たちはそれにすこしばかりの悲しみや切なさという感情をもって、楽しむことが出来るのかもしれませんね。
剣の舞
ふぅ、眠くなったから短めになりそうかな。
この物語は、ある女剣士の復讐の物語であり、そしてある剣士の物語―
家族をめちゃくちゃにされた女が復讐するためにある剣士に弟子入りし、結果、自分の命と引き換えに、復讐を果たすことが出来た。このように見れば、悲しい結末だがオーソドックスな物語だと見えます。私もここらへんは感動するほどではなかったのですが、最後の辺りに心惹かれました。
その最後の辺りというのは、女剣士が死んだ後、剣士の疋田が道場で柳生と試合をする辺り。試合を始めるとき、疋田が女剣士のことを思い出し柳生から一本を奪うというシーン、疋田はなぜ思い出したのかという疑問が私の頭に残っています。その疑問についてよ~く考えてみましたが・・・
うん、やっぱり無理☆わからない
微妙に感じることは出来るんですけどね、言葉にはしにくい・・・
そして最後のページの最後のコマ、その後のことが書いてあるあの後日談というのがなぜか私はものすごく気に入ってるんです。その後の物語はどうなったのか、一応書いてあるが詳しくは分からない。そんな妄想の余地があって、同人誌でもかけそうな勢いがでてきてしまうんですよね~。後、なんか文体が古典的で癒されるって言うか、まあいいか。
この漫画は最後のコマで一気に、歴史を感じました。まあ思っていることは雪の峠の最後に書いたのとほぼ一緒ですが。・・・あ~やっぱり短くなった。
追記(2010/5/14):
ちょっとこの話を読み返してみたのですが、主人公を女剣士の榛名ではなく疋田として考えるとちょっと印象が違いました。
榛名が疋田に「剣士が腕を磨くのは手段だが、ではあなたの目的とは何ですか?」と問う場面があります。疋田はその問いに答えることは出来ませんでした。それ以降もその問いに対する彼の答えを明確に描写する場面はありませんでした。
しかし、もしかしたら最後の場面で彼がその問いに答えを出したのかもしれません。一体この答えというのが何なのかはよくわかりませんがね。
岩明先生の書いた歴史漫画二つ、どちらも良かったですね。岩明先生の絵柄自体、硬派な感じなので見事に歴史漫画というジャンルにマッチしました。多少グロがありますが、歴史好きな年をとった方におすすめの漫画ですね、これは。
雪の峠・剣の舞 (アフタヌーンKCデラックス) (2001/03) 岩明 均 |