殻都市の夢 感想
殻都市の夢-Hallucination from the womb- 作 鬼頭莫宏
「なるたる」や「ぼくらの」の鬼頭莫宏さんが、マンガ・エロティクス・エフで執筆していた「殻都市」を舞台にした作品を集めたのが、この単行本。あとがきを見る限り、最初は読みきりだったようですが何故かシリーズもの扱いされて、短編をいくつか書いていったようですね。
ちなみにサブタイトルである「Hallucination from the womb」は直訳すると、「子宮からの幻覚」。この訳本当に合ってる?
殻都市の夢 (F×comics) (2005/11) 鬼頭 莫宏 |
載っている作品は、「誕生日の棺」「3年間の神」「生死者の聲」「媚薬水の味」「座敷童の印」「造物主の檻」「渉猟子の愛」の7編です。こう書いて気づきましたが、単行本タイトル含めて、「3文字の名詞」+「の」+「1文字の名詞」になっているんですね!まあ、そうやって統一する意味とかは特に無いだろうけど!
よく登場する人物は、単行本表紙にも大きく載っている男女の二人。と言っても、彼らがずっと主人公というわけではありません。都市内の事件を調査し読者視点を持つことが、物語上の主な機能。名前すら無かったような…。
単純な感想を書かさせていただくと、私が最も好きなのは「生死者の聲」です。ごくまれに遺体が腐り果てるまで動いてしまう丙種遺体(ゾンビ)がいる短編です。ゾンビとなった男が恋人に、純粋に愛を告げようとするのは、何とも美しいものです…。
これ以外の作品にも全て、「何かしらの愛」が描かれています。何かしら、というのは、愛の形がそれぞれ通常とは異なっており、しかし「愛」と言い切れるようなものなわけです。愛するがあまり恋人の過去全てを得ようとした男、3年間だけ少女に命を与えた男など…。
多くの作品に、「少女」と「セックス」が登場します。鬼頭さんの作品を鑑みればそういうのが登場するのは普通のように思えますが、他の作品よりかはその二つの要素が「濃い」ように思えました。
所謂「自然」がほとんど無いこの都市で物語が育まれていったわけですが、この人工的な世界観に加えて、物語の設定などにもそういう人工的な何か、作られた何かが関わってくることが多かったように思えます。物語と世界の両方に、得体の知れない人工的なものがあり、それが上手くマッチしています。
というわけでやはり、井上靖さんの敦煌のように、このシリーズの真の主人公はこの殻都市自体だったのではないでしょうか。
古いものは下に追いやり、上に伸び続けるこの殻都市。いろん記憶を置き去りにしながら捨てていっても、それでも様々な物語がその場所で育まれていたことは事実。変わりゆく異常な世界の中でも、その世界に適した形を取る様々な人の愛。
サブタイトルの直訳である「子宮からの幻覚」というのは、おそらく「子宮」は殻都市を表し、そして「幻覚」というのは殻都市が生み出すまたはそれから生まれる、様々な儚い物語を表していたのだと、私は思います。