小説「津軽」 感想

津軽   著者 太宰治
 36歳の太宰治が1944年から3週間にわたって津軽半島を旅行したときのことを題材とした小説、「津軽」の感想を書きます。
 wikipediaによると、紀行文っぽいけどフィクションも含まれているし太宰自身のことも多いので、「自伝的小説」のカテゴリに入るようです。
 「人間失格」などのような陰鬱とした雰囲気はあまり無く、戦争中に書かれたにも関わらず、案外「平和」な雰囲気漂う作品です。

津軽 (新潮文庫) 津軽 (新潮文庫)
(2004/06)
太宰 治

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 他のサイト様の感想を見てみると、皆さん「太宰に対するイメージが変わった」とか「親近感が湧いた」というような印象を受けた人が多いように見受けられました。実際、私もその通りの印象を受けましたよ。
 「人間失格」とかの他の太宰の作品、彼の人生の結末はかなり暗いですが、「津軽」はかなり笑えます。で、笑いの質としては、基本的に「自虐」がメインとなっています
 例えば太宰が過去の自分を思い返すシーン、

さすがの馬鹿の本場においても、これくらいの馬鹿は少なかったかもしれない。書き写しながら作者自身、少し憂鬱になった。

とまあ、こんな感じで、しょっちゅう自分を卑下していたりしています。しかも、その理由が普通の人にとってはしょうもないようなことばかりで。(時代の違いもあるかもしれませんが…)
 
 「自虐」のほかには、「痛々しい」っていうのも多かったですね。例えば、太宰が津軽の知り合いと文学談(?)をしているときに言ったセリフ、

「君たちの好きなその作家の十分の一くらいは、僕の仕事をみとめてくれたっていいじゃないか。(中略)みとめてくれよ。二十分の一でもいいんだ。みとめろよ」

この部分を読んでいるときは「やめろ…もう、もういいんだ…!」と、彼の暴走を止めたくなりましたよ!
 確か人間失格では自分のことを「道化」だと言っていましたが、このシーンでは本当の自分を傍に置いた自虐している、という風には感じられず、正真正銘の自分を出して後で「うわあ…やっちまった…」と後悔していそうな感じでしたよ。私も昔を思い出してムズムズしてくる
 この津軽の旅で太宰は多くの津軽人の知り合いに再会します。そして津軽の歴史や風土に関しても、昔の資料を紐解いて、津軽を深く知ろうとしています。
 で、彼が導いた「津軽人とは?」の解答は、「津軽人は歴史の自信が無く、そんな自分たちを認めたくないような気持ちで他人に対して反骨するが、本質としては野生的ながらも愛情あふれるサービス精神の多い人たち」だそうな。つまるところ、心の奥深くには自信があって他人に対しては一定の距離を保つ都会の人たち、とは真逆な人たちなんでしょうね。
 サービスが暴走して他人に引かれて、その後自分が憂鬱になるとか、そういうエピソードはSさんのエピソードを読むとわかりやすいです。そういう性質は太宰自身も認めているようで、彼は金持ちの家に生まれながらもそういう粗野な部分こそが自分の本質であることを再発見し、そしてこの小説は終わりを迎えています。
 
 この小説は確かに紀行文っぽいのですが、やはりこれは、「太宰治という一人の郷土人が故郷を見て周ってみた」というものなので、小説とかでもなくて、むしろ「日記」に近いんじゃないかと思います。
 でも単につらつらと脈絡もなく日記を書いたわけではなくて、やはり文章としてまとめるときには「津軽人」というものをメインテーマにして構成していったように思います。
 小説家としてはまあ、人間を研究するのは当然のようですが、しかしこのくらい故郷の人間のことを書いた小説家って少ないかも?もしかして、東京にいる作者が自信を失っていたために、自分のルーツを知って、心の拠り所を探り当てようとしたんじゃないのかな、と勝手に推測してみます。そうじゃなければ、ラストシーンでは綺麗な雰囲気なのに、締めの言葉が「元気で行こう。絶望するな」にはならなかったんじゃないですかね。
 普通に読んでいれば、読者はラストシーンで元気を失ったり絶望することは無いでしょう。それにこの小説の最初にも「元気を出さなくちゃ」みたいなことは書いてないですし、やはりこの小説(というか太宰の津軽旅行)は作者の、作者による、作者のためのものだったのでしょうよ。
 つまり、読書みたいなことをして感動したりしている人を楽しむというような、作者自身も読者であり、それの読者が私たちだったのでしょうね。わざわざ書かなくて良い?まあ、いいじゃないか!
 少しだけ私の「青森県民」に対するイメージを書きますが、青森県民って上京する人多くね?何だか、「東北の方から上京してきた人」っていう設定だと大抵青森県民のような気がするんですが。意地っ張りで反骨なところあるから、「こんな田舎でくすぶっていられるか!」なんて思いが強かったりするのでしょうか。
 うむむ、県民性とそれに影響してきた要素を考えるのって面白いな~。

小説

Posted by YU