門 感想

2020年4月23日

雑記
 amazonでゲーム買ったら、おまけがついていた。
 おまけ!そういうのもあるのか!


 作 夏目漱石
 「三四郎」「それから」に続く三部作のラストである「」について感想を書いていきますよ。
 この「門」と言うタイトルは、夏目漱石の弟子が適当に本を開いてそのページにあった「門」という言葉にしたという風に、おみくじみたいに決めています。こんな適当なタイトルのつけ方ですが、実際に小説の中に「門」が出てきてそれが主人公と社会の関係を表していたので、このタイトルでいいだろうということで決定したようです。
 「それから」は他人の妻を奪うことで人間の感情の自然に任せた行動を描いた小説ですが、今回の「門」は他人の妻を奪った男の「それから」の生活を描いています。
 主人公宗助は激動の過去を送りましたが、その後の生活は極めて平凡です。自分の燃えるような自然の感情に任せて行動した結果が、地味で質素で希望もない、感情が激しく変化することの無い生活に変わってしまったことに、人生や運命の皮肉や矛盾を感じてしまいます。
 親類に捨てられ、友達に捨てられ、社会から捨てられた宗助とお米は、互いが互いを自分の安息の地としているがごとく、彼ら二人は幸せな老夫婦のような一心同体の関係を結んでいます。ひそやかに、仲むつまじく、彼らにとって絶対に必要なものはお互いだけで、だからこそ社会や家族の関係に対してあまり執着心を持っていないのでしょうか。いや、彼らの境遇から言えば、彼らは社会や家族に対して積極的な接触が許されないからこそ、二人の関係は切っても切り離せないような深い関係になっていったとも考えられます。このことは「彼らは、水の上にたらした2滴の油のように、社会という水から反発されて油同士が硬く結合しているような関係だ」というような言葉で、作中でも表現されています。
 そんな彼らですが、彼らの元に小六という弟がやってきて世話をしなければならなくなり、経済的に困窮してしまいます。さらに、大家の坂井と仲良くなって、ようやく彼らにも社会との繋がりが出来るのかと思っていたら、坂井の元に妻お米の元夫の安井がやってくるようで、宗助は過去の後悔や彼に対する懺悔などで精神を患わせてしまいます。
 傍から見れば、宗助たちには事件らしい事件は起きていないように見えますが、彼らの過去と心情を考えれば、彼らの人生そのものに深く繋がる事件だったのでしょう。それほど彼らにとって、彼らの過去の存在は大きいものなのです。
 私の持っている文庫本に載っている解説では、「門を含むこの三部作は、自然に生きようとする人間の挫折と後悔を描いている」とありましたが、確かにその通りだと思います。三四郎では失恋したし、それからでは友人に好きな人を斡旋したことと奪い取ったことに対する後悔、門でも友人の妻を奪い取った後悔と社会からの圧力が描かれています。
 いつまでも過去が彼らにまとわりついているからこそ、作品全体に悲壮的な雰囲気があるのでしょうか。
 門の最後には、大体のことが無事に片付き、もう春になろうとする時期に、以下の言葉で〆られています。

「うん、しかしまたじき冬になるよ」

 この言葉は、問題が片付いたと見えてもそれは本当の問題の解決ではなく、またいつかこのような問題がやってくるだろう、という意味を持っています。宗助は、「私たち二人は徳義上罪人であるから、運命的にも安息の時はやってこないのだろう」というような諦観を、この言葉で表現しているのでしょうね。
 全体的に、この三部作は人間が自然に生きようとするが、社会がそれを許さないために苦悩することが主題となっているようです。夏目漱石はその問題にとりかかりましたが、おそらくその問題の解決方法を見出すことは出来なかったでしょう。ストレスによって体調を崩したり病気になったりすることが多いようでしたから。
 夏目漱石は悩みました。
 人間は自分の自然に任せて行動するべきか?
 この問題の解決はかなり難しそうです。人間全てが自分の欲望のままに動けば、社会は必ず混乱していき、荒廃してゆくでしょう。他人の妻を奪っても良い社会なんてやはり嫌です。
 しかし、自分の感情を抑え続けて生きるのも、それはそれで辛いでしょう。自分のやりたくないことをやり、自分のしたいことは出来ない社会だと、どうして自分は生きているのかと疑問に思ってしまう可能性が高いと思います。
 要はバランスの問題なのでしょうが、そのさじ加減が難しい。時代によってそのさじ加減は変わってきます。今は明治時代よりも自由なようですが、親が子供を殺す事件などを見ると少し個人の自由が行き過ぎているように感じます。そのような殺人者がもう少し自分の感情を抑制していたならば、殺された側の個人の自由が侵害されることはありませんでした。
 個人の自由が尊重されすぎれば他人の自由が失われ、個人の自由を抑制すれば他人の自由が失われることは少ない。しかし、個人の自由が抑制されれば大人物も生まれなかったりします。
 
 最後に、あまり感想に関係ないのですが、この小説を読んで結婚してみたい!と思うようになりましたよ。正直、宗助とお米の切っても切り離せないような深い関係はうらやましいものです。
 男と女は不完全なもの同士が結合して完全なものになるのですから、このような一心同体な関係は宗教的に考えてもまさに理想の姿だと思いますよ。まあ、いつこの関係が破壊されるかわからないくらい、彼ら二人には負った罪からの反撃がこの先の人生に待ち受けているようですが。

門 (新潮文庫) 門 (新潮文庫)
(1948/11)
夏目 漱石

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Posted by YU