三四郎 感想

北海道旅行中に読んだ三四郎の感想。
夏目漱石が書いた三四郎であって、一二の三四郎とかそういうのじゃないよ?


三四郎 感想
 感想書く前に、本当に全てを理解できたかどうか確認するためにネットでいろんな人の感想やら考察やら読むのを習慣にしているんですけど、この「三四郎」はやはり古いせいか夏目漱石の信条やら文体やらを考察しているばっかりで自分の望んでいるものが少ないです…
 正直言うとこの本に出てくる全てのことを理解できたとは思っていません。そりゃまあ時代が違うわけですから地名や調度品や人物名がわからないのは当然ですが、登場人物の心理を完璧に理解出来なかったのは悔しいです。
 
 ではまあ感想を。
 あらすじとしては、主人公の三四郎は熊本から東京大学に入学するため東京へとやってきた学生。東京での新しい生活、出会った新しい人々、田舎に置いてきた母やその他の人々、多くのものと接触し生活していく上京学生ものとしてはかなりど真ん中のものです。三四郎の状況自体は現代でもよくあるものなので、明治時代の小説であろうと感情移入のしやすいものになっているでしょう。
 三四郎は自分には三つの世界があると感じます。感想が書きやすいので感想文も3つに分けます。まず一つは「故郷」。二つ目は「東京と学生生活」。そして三つ目は「みねこを代表とする最も深厚な世界」。
  
  一つ目の世界、三四郎の故郷について
 小説の中ではしょっちゅう三四郎に故郷からの手紙がやってきます。内容は故郷でなんとかがあっただの、お金のことなど。三四郎も真面目に手紙の返事を書いたりしています。
 言わば三四郎の過去の世界です。この世界が大きく物語に干渉してくることはありませんが、それでも三四郎の心理を考えるには重要な要素でしょう。
 二つ目の世界、三四郎の生活について 
 上京した直後には三四郎はこう感じます。「劇的な変化を遂げている東京の中で、自分だけが取り残されているような感じがした。(要約)」これは現代でも田舎から都会にやってきた人が感じることでしょう。私も名古屋に来た頃は、人がたくさんいるのにみんながみんな自分とは関係ない世界を生きていると感じ、妙な孤独感にさいなまれたこともあります。それに電車で轢死にあった人の話も三四郎の生活の不安が表れているようで、人物の心理状態がわかって面白いです。少し間違えばこうなる…三四郎にそう語りかけているような漠然とした恐怖がありました。
 しかし三四郎の生活が妙に暗いのはここ辺りまででしょうかね。その理由は、与次郎が登場したから。彼のおかげで三四郎の生活が若干能天気になった感じがあります。三四郎の問題は解決されていないのですが、与次郎の馬鹿みたいな行動力と発想力で雰囲気は少し明るくなったと思います。以降三四郎は与次郎に翻弄されるのですが、まあ舞台回しとして役に立っていたでしょう。
 でもよく考えてみれば、この世界の中で動くのは与次郎だけであってその他の三四郎や与次郎の敬愛する広田先生や野々宮はほとんど自分からは動かないんですよね。私が読んだ文庫本に載っている解説でも、

 この「世界」の色調は暗い。(中略)与次郎の明るさが逆に際立たせる陰影のようなものだ。

という風に書いていますしね。もし与次郎がいなくなったら…おそらく彼らは鬱屈したものを抱えながら、静かに、そして何も変えようとせずに時を過ごしていくことになりそうです。
 三つ目の世界について
 三つ目の世界では三四郎のみねこへの思いが大半になっていると思います。ですのでここで三四郎が上京途中にあったかなり衝撃的な出来事が関与してくると思います。その出来事は、三四郎が女を宿に案内し同じ部屋に泊まっても何もなかったときに、女が言った言葉「あなたは余っ程度胸のない方ですね」
 最初読んだときはこの出来事はかなり衝撃的だったので、後々の物語に大きく関与してくるんだろうな~と思いましたが直接関与してくることはありませんでした。が、広い視野で大きく見てみるとこの言葉は三四郎の結末を表しているような…そんな気がします。
 みねことの出会いや会話、みねこの素振りなんかを見ていると三四郎は彼女と結ばれるんだろうと思っていました。しかし結末はそうにはならなかった。ということはこれまでの彼女の言動全ては嘘だったかのような印象を受けますが、漱石が「無意識の偽善者」を書こうとしていたことを考えると、彼女は別に悪女でもなんでもないのでしょう。しかし、彼女が三四郎と初めて出会ったときの絵を描いてほしいと言ったりしていたエピソードを考えると…一体みねこは三四郎についてどう思っていたのか?と疑問を感じずにはいられません。
 小説中ではみねこと結婚した男のことはほとんど書かれていませんので、三四郎の生活の裏ではみねこは他の男と交際していたのでしょうか。広田先生は彼女のことを「自分が好きな人物でなければ結婚しない女」と批評していたので、この結婚も恋愛結婚だったのでしょうか。三四郎があまりにも報われないような感じで、少し後味悪くこの世界は終わります。
 小説中では3つの世界のほかにも興味深いことがいっぱいあります。与次郎が生み出す奇妙だが的を得たような言葉、「女が偉くなると僕たちのような独身者が沢山出てくる。独身者が出来得ない程度内において女が偉くなっちゃだめだね」なんていう独身者の言葉等々。特に後者の言葉は現代でも普通に通用しそうなほどに的を得ている感じがして好きです。でも今こんなこといったら叩かれるんだろうな…

三四郎 (新潮文庫) 三四郎 (新潮文庫)
(1948/10)
夏目 漱石

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Posted by YU