羊のうた7巻感想&総括

雑記
 自信満々でやったことが実は失敗していたらものすごくショック受けるよね!


7巻
 ついに最終巻。一砂、千砂、水無瀬、八重樫らのそれぞれの思いはどのような形で決着がつくのでしょうか?
 一砂は学校で血の色をした絵の具を見てしまい発症してしまいます。必死に人がいないところへ逃げますが、彼が好意を持っている人、八重樫が後を追いかけてきてしまいます。
 彼は八重樫の血を飲むことを頑なに拒んでいましたが、お互いがお互いの気持ちを吐露した後、ついに・・・血を飲みます。
 真実
 やはり彼女も他の登場人物と同様、好きな人に必要とされたかったのでしょう。自分は一砂に必要とされていないと思っていた彼女にとって、一砂に血を飲まれたことは自分は彼に受け入れられることができるという証となることでしょう。
 人を傷つける行為だと思っていたことが、逆に人に喜びを与えることになるというのは実に面白い構図ですね。
 このとき千砂はというと、看護婦と家族のことを話し合っていました。看護婦はしつこく高城家のことについて調査をしていて、千砂からも話を聞こうとしていました。
 そこで明かされるのは、父の自殺した理由。もし千砂の言うことが正しいのなら、父は千砂を母の身代わりにしようと思っていましたが、やはりそんなことは出来ずに、千砂との奇妙な関係に疲れて死んだそうです。千砂も言っていたように、父は弱い人間だったのでしょう。
 確かにそんな関係に疲れることは分かりますが、何も千砂を置いて死ぬことはないじゃないですか。父は彼女に必要とされていることが分かっているのに・・・
 いや、もしかしたら千砂に頼られることにすら疲れたのでしょうか。だから自殺しようとしたとき、彼女も殺そうとしたのでしょう。
羊のうた
私たちは・・・羊の群れに潜む狼なんかじゃない。牙を持って生まれた羊なのよ。
 父が死んでから、千砂は気持ちの上では一人で生きてきました。父に死なれても、こんな奇病を持っいても彼女はたくましく生きてきました。その彼女の信念を言い表しているのが上記の言葉でしょう。
 もとから他人を傷つけようとしている狼ではなく、傷つけたくないのに結果として他人を傷つけてしまう牙を持った羊だと、この病を言い表しています。この病がどのくらい彼女に対して重荷であったことか。この病のおかげで家族が壊れていく寂しさを、彼女は背負ってきたのでしょうかね。
 
 看護婦と話すことにより千砂の失われた記憶が蘇ることになりました。それは、母が彼女の将来を思って彼女を殺そうとしたとき、とっさに近くにあった鋏で母を殺してしまったことです。
 父が必死に隠してきた事件。それは千砂の気持ちを思ってのことでしょう。彼女に罪悪感を持たせないために。
 しかし、そのときの父の思いはどのようなものだったのでしょうか?最愛の人を自分の子供に殺されたとき、父は悲しんだのか、憎んだのか。どちらにしろ、どうして彼は千砂を愛することが出来たのでしょうか?
 いや、もしかしたら彼が生きるのに疲れた理由は、彼女を本気で愛することが出来なかったことにあり、その理由は母を殺した自分の子供を憎まずにどうにかして愛そうとしても、やはりそんなことがあったせいだから出来なかったのかもしれません。
 母を殺した罪悪感からか、それとも父の思いを知ったからか、それ以来千砂の体力は急激に衰え、寝たきりになります。自分でも死期が分かるほどに。
 そのとき、一砂は彼女と一緒に逝こうとします。彼は本当に彼女を愛し、そして彼女もまた彼を愛していたのでした。最愛の人が今にも死にそうなのに、一砂があんなに冷静でいられたのは、最初からこうなることを予測していたらしいです。彼が発症してから、彼が必要としたのは千砂で、そのときからも千砂に頼って愛することになることがわかっていたのでしょう。
 
二人で
そして・・・
 その後、一砂だけは奇跡的に助かりましたがその後遺症として、高校一年生の頃の思い出だけが失われてしまいます。つまり、自分の過去、千砂、八重樫の思い、義父母の思いなどの全てが忘れてしまい、この物語が始まる前の一砂に戻ってしまったのです。
新たな始まり
 これから先、記憶が蘇ってしまったことがあるかもしれない。そのとき彼は千砂のことも思い出してしまうかもしれない。それでも彼を愛する八重樫はそのときを恐れない。
 
ここから始めればいいのだから

羊のうた (第7巻) (バーズコミックス) 羊のうた (第7巻) (バーズコミックス)
(2003/02)
冬目 景

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総括
 一巻感想前にも書いたように、この漫画は人の心情に重点を置いているように感じられました。罪悪感、依存、愛、憎しみ、悲しみなど、人の少し暗めの心の描写というものが多くありました。
 一砂の発症してしまって他人に傷つけまいとし、その反面千砂には傷つけてまで血を欲しがる気持ち。千砂の父への依存、母と父を殺した罪悪感。
 この漫画に出てくる登場人物は皆、複雑な状況で複雑な心情を持つことになりました。その複雑な心同士が絡み合って、彼らの関係というものがものすごく複雑になっています。その全てをまとめることは私には出来ませんが、漫画を読んでいけば少しだけ分かるかと思います。
 しかしそれでもこの漫画をすらすら読むことが出来たのは、やはり冬目さんの力量でしょうか。登場人物の表情、心理描写、展開など、もろもろの要素が上手く絡み合うことによりこの作品はここまでまとまったものとなったのでしょう。
 おそらく小説家が漫画を書きたいとなると、このような漫画になるのかもしれません。文だけでは表現しきれない細かな表情、見せ方を漫画は出来ます。
 「羊のうた」は小説のようですが、漫画の利点を最大限に生かした作品になったと私は思います。
1~3巻 感想
4~6巻 感想

漫画

Posted by YU