鬼頭莫宏短編集「残暑」 感想

鬼頭莫宏短編集 残暑  
 この単行本はその名の通り、「なるたる」や「ぼくらの」などの作者としてそれなりに有名である鬼頭莫宏さんの短編集です。掲載紙や掲載年はばらばらですが、何とかこうやって無事に一つの単行本として発行出来たようですね。

鬼頭莫宏短編集 残暑 (IKKI COMICS) 鬼頭莫宏短編集 残暑 (IKKI COMICS)
(2004/06/30)
鬼頭 莫宏

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img066.jpg 一番古い「残暑」は、なんと1987年の作品であり、鬼頭さんのデビュー作となっています。その作品の絵柄も今のものとは結構違っており少々古臭さを感じさせますが、時代を表しているようで面白いです。
 「なるたる」や「ぼくらの」のように得体の知れない何かが出てきて巻き込まれていく、というようなことはなく、短編集では人間同士のドラマを切なく描いているようです。一応幽霊が二作品に登場しますが、それ以外は全て現実的であり描かれる内容も現実的なものになっています。
 「なるたる」や「ぼくらの」では、夢見がちな少年少女に残酷な現実を見せ付けるようなストーリーでしたが、この短編集ではそのような毒づいたものはなく、言ってみれば、う~ん…、つまり「感慨」のような感情がよく描かれているように思えます。
 短編集の中で私が最も気に入ったのは「パパの歌」です。陰の薄い父親は、かつては娘の夫のようなヤンキーのようであり、父親になるから大好きな車を売るというのも娘の夫と一緒。そしてオチは、娘の夫が「RCサクセションの『雨上がりの夜空』にはオレのことを歌った歌だ」と言ったことに対応して、父親はこんなことを言います。「忌野清志朗の『パパの歌』は私のことを歌った歌だ」
 人が変わっていく様子が感慨深く描かれていますし、オチも秀逸です。話として単純に上手かったですしね。

漫画

Posted by YU