Omoriの感想と考察――罪とトラウマとサウダージと
2020年に英語版が発売され、2021年に日本語版が発売されたRPG、「Omori」について感想と考察を書いていきます。
主にRPGツクールで作られたゲームで、古風な2DRPGです。
しかしビジュアルやストーリー、演出が非常に凝っているし、案外ボリュームもある名作でした。
実績制覇とストーリー各ルートを堪能していたので、プレイ時間はなんと60時間。
この手のゲームにしてはかなりのものです。
『真実』を突き止めるストーリーなので、これからの感想と考察両方でネタバレ超注意です。
実績
実績制覇しました。
実績の数は非常に多いし難しい物も多いので、攻略サイトに頼らせていただきましたよ。
一番難しいのはサニールートの「愛されもの」でしょうかね。
一つの抜けなくほぼ全てのイベントをこなさないといけないので、初見ではまず無理。
攻略サイト見ながらでも不安だったので、各日でデータを残しながら進行しましたよ。
次に難しいのは最強の敵、パーフェクトハートの撃破。
レベルMAX、強化イベント全てこなし、全装備を集め、消耗品を大量に集めてもギリギリでした。
先手か後手かどちらかが安定していれば良いのですが、1ターンでもリズムが変わると即瀕死or全滅。
一度2連続で攻撃を受けてギリギリオモリとヒロが残り、オモリの素早さダウンの攻撃のおかげで次のターンに先手が取れ、ヨミジャムパック→ホールピザで回復して何とか撃破。
装備は全ステータスが上がるものと、ケルにはHP+100となるもの付けてましたね。
考察
ここからは自分なりに考察をちょっと書かせていただきます。
Omori考察ブログはいっぱいあるんですが、やっぱりこうやって書かないと私もスッキリしませんからねえ!
ハングマン(Hangman)とは
このOmoriにおいて、ハングマンには3種類の意味があります。
- 首吊り自殺体
- 「ハングマン」という、言葉当てゲーム
- 吊られたマリ
「吊られた男」という意味のハングマンはタロットカードの一種でもあり、これに関してはオカルト好きの人(オタク)には分かりやすいものかと思います。
しかし2つ目の意味、日本人には馴染みの薄いハングマンゲームはOmoriをプレイして初めて私は知りました。
Wikipediaに分かりやすい説明があるので、ご参照あれ。
3つ目の意味、ヘッドスペースでのプレイヤーの旅は、この「真実」に行き着くことが最終目的となります。
逃避のための妄想の世界を、隠そうと思っても隠しきれずに湧いてしまった断片を集め、「真実」を知る。
その流れを、ハングマンゲームにもなぞったダブルミーニングとしてのでしょう。
赤い手(Red Hands)とは
元の位置に戻してくれたり道を作ってくれたり、オモリの最強の技となって強敵を倒したりと、ゲームの最初から最後まで登場する赤い手。
Omoriの中では印象的な物ですが、作中での説明はほとんどありません。
僅かに、サニーのガチャガチャの景品として登場するくらいです。
これは一体何なのでしょう?
少しGoogle検索で調べてみると多くの意味を発見できましたが、特にOmoriにおいては「現行犯」「血が付いた手」という意味が合致するように思います。
サニー(オモリ)が罪を犯した人間であることは、真実によって判明します。
Omoriというゲームにおいて、非常に多くの『罪悪感』が演出されていますが、この赤い手はまさしくその罪悪感を象徴する存在であると判断しても良いように思います。
良いことも悪いことも全て消し去ったであろう、虚無のホワイトスペースですら、この赤い手は生きている。
真実(罪)からは決して完全には逃れられない、そんなサニーの深層心理を表しているのが、この『赤い手』と言って良いのでは。
知らない人とは
時折影のような形で登場する「知らない人」、これは誰なのでしょうか?
というとそりゃまあシルエットから言ってバジルなのですが、どうして「知らない」のだろうか?
サニー宅のクローゼットがあるであろう場所を調べても「何もない」と表示されることと同様、本当は「有る」のに「無い」とする、サニーの意識。
本当は勿論「知っている」のに、「知らない」とする、それはつまり「知りたくない」ということ。
ヘッドスペースは『真実』から逃れるためのものだというのに『真実』に親しい存在であるバジル、それは「知りたくない」サニーの想いが表れています。
マリの偽装自殺を提案したのはサニー?バジル?
真実のアルバムから判明する、サニーとバジルのマリの自殺の偽装。
マリをベッドに寝かせた後、どちらかがその案を提案したはずですがどちらが行ったのでしょうか?
初回プレイでは分かりませんでした。
明記されてないから「ご想像にお任せする」というパターンなのでは、と推測しました。
ゲームファイルを解析すると真実のアルバムにも言葉があるようで、それによるとバジルが提案したことであるのは明白のようです。
ただその言葉も作中には無く、製作者としてはあえて説明しないことでどちらかには判別させようとしてないから、「想像にお任せする」のが正規なのではないか。
……とも考えられるのですが、ブラックスペースで無惨に死んでゆくバジルのことを考えたら、やっぱりバジルなんじゃないでしょうか。
サニーが自殺の偽装を提案したのなら、バジルが被害者すぎるよ!
殺人者であるサニーの共犯にさせられ、落ちた瞬間や吊った瞬間を見てしまったことでトラウマに植え付けられ。
それに完全に被害者ならバジルの罪の意識ももうちょい少ない(はず)し、ブラックスペースでバジルを痛めつける動機も薄い(はず)。
と考えたら、まあ、バジルが提案したんでしょうね。
もちろんバジルはサニーを助けるために提案したことですが、同じように罪の意識に苛まれます。
サニーの黒い感情においては「(バジルがあんなことを提案したから、今でもこんな気持ちになっているんだ。わざわざ偽装しなければすぐに然るべき罰を受けることで、むしろ立ち直りは早いかもしれなかった)」と、恨んではいけないけど恨んでしまって、二人は疎遠になって。
真実を受け入れて前に進む、それがOmoriの最終目的ですがもう一つ目的があります。
何度も表れている選択肢、「バジルを助ける」
ヘッドスペースに逃げることも恐らく出来ずに苦しんでいる真面目で優しいバジルは、放っておけば最悪の選択に向かっていきます。
ニャーゴに「何かを待ってるの?」と聞かれますが、待っている人は誰なのでしょう。
サニーだけじゃない、バジルもそうなのかと。
行き止まりの思考から救ってくれるきっかけを、バジルも待っていたのでしょうか?
なぜサニーはマリを突き落としたのか
国内外のOmori考察隊で考えられているこの件、これも上手くボカされているので「想像にお任せする」のが作者の意図なのでしょう。
しかしゲーム内の材料である程度絞られてきます。
- パターン1 「サニーがマリのストイックさに逆上して」
- パターン2 「サニーが事故でバイオリンを落としてしまったことを叱責されて逆上」
どちらにせよ、バイオリンを落とすもしくはマリの叱責→マリの叱責もしくはバイオリンを落とす→逆上→突き落とす、の流れになるかと。
「マリは完璧を求めていた」との記述は作中でしれっと書いてますので、これは幾分かは本当だと思って良いでしょう。
マリは完璧な演奏会としたかった。だけどこれはマリがマリ個人のためだけに行おうとした、とまでは判別つきません。
サニーに自信を付けてもらうために、今まで助けてくれた仲間や両親のために……そんな気持ちももしかしたらあったのかもしれないと、推測してしまうのです。
マリだって1人の人間です。完璧な存在ではなかったはず。
だけど死んでしまった人には敵いません。理想化も進むことになるでしょう。
いや、自分のせいで死んでしまったのなら、罪悪感で気が狂わないように本能的な防衛策で「あいつは死んで当然の奴だったんだ」と考えてもおかしくはありません。
マリが死んだのは理不尽な叱責をしたからなんだ。だから、しょうがなかったんだ。
だけど、サニー(オモリ)にその想いは見られません。
真実を知った後で、いやむしろ湖で溺れそうになった自分を命を省みないほどの想いで助けてくれた女神のようだと知ったマリ。
GoodEndingではそのマリの愛が、サニーのケジメを付ける責任感にも繋がり、真正面から受容することにも繋がります。
ヘッドスペースの色合いは何?
現実では普通の色なのにヘッドスペースでは特徴的な色で演出されているこのゲーム。
「主要人物のグラフィックが妙に同じ色になっているのはどうしてだ?」と、当初のプレイヤーは思うはず。
色彩感覚が微妙な自分にはあの色だけではハッキリ言えませんが作中でちゃんと文字で説明されていますね。
ヘッドスペースは「紫」をベースにした色で構成されており、そしてこれはマリが好きだった色です。
これもサニーの深層心理の一つなのでしょうか。
サニーも紫が好きという説明は無かったと思います。
せめてヘッドスペースだけはマリが望む世界であって欲しい。
でも、それにしてはピアノは隠されていましたね。真実に近いからか?
オーブリーについては「ピンクが好き」と明記されていますが、ヘッドスペースには反映されていません。
オーブリーは好きだし、だから好まれたいという願望もサニーにありながら、『色』という深層の意識までは届いていない。
これはサニーの、マリとオーブリーへの想いの違いが表れているかのように思うのです。
「夢の中でも、あなたを想う」と。
Omori(オモリ)とは?
ゲームのタイトルとなっているOmori、結局作中では様々な意味を持たされることになりました。
- Hikik"omori"。
- 架空のピアノのメーカー名。
- 引きこもりのサニーの別人格「オモリ」。
元々は「引きこもりのomori君」、みたいなものを原案として構築されていった世界とストーリーで、マンガとかに良くある「適当な名前」だったのでしょう。(Omoriの歴史を説明するサイトを少し調べた限りでは)
それを作中に登場させるべく架空のピアノメーカー名とし、サニーにそこから発想させたとして、空想上の自分にオモリと名を付けた。
ヘッドスペースの中で最も異質な存在、「観測者」であるがゆえにベースの色である紫はありません。
ピアノの鍵盤の白黒、白い虚無と黒い感情、白い服と黒い髪のマリ……これらの色もまたOmoriを演出するのに欠かせない存在です。
オモリはサニーとほぼ同一、だけどサニーはサニーのまま空想の世界には行かなかった。
それはなぜか。
作中で説明があったかなかったか少し忘れましたが、やはりサニーは自身を許せないとの想いもあるんじゃないでしょうか。
だから空想に逃げたいけど、自分の存在ですら、バジルと同様『真実』に近い。
バジルを「知らない人」としたのと同様、サニーはヘッドスペースにおいて「知らない人」なのでは。
ヘッドスペースの主はオモリ。
その主が赤い手(罪)を携えてサニーと戦う。
しかし決して屈しない。なぜならオモリを生み出した想いは、サニーにとって本物ですからね。
GoodEndingにおいてはサニーとオモリが抱き合い、オモリが消えるような表現はなされていますが、完全に無くなったというより、言葉では「統合した」「受け入れた」と表現したほうが正しいかも。
感想
アメリカと日本の合作、みたいな。
このゲームは日本製ではありませんが非常に多くの日本の要素があるように思います。
あまり言い過ぎると気持ち悪い国粋主義者みたいですが……!
しかしデザインと言い小物と言い、日本の物が非常に多いのは事実だし、主に影響を受けたゲームも「Mother」「ゆめにっき」だそうですし。
「テスト勉強してねー」って言いながら本当は勉強してるパターンってアメリカにもあるんですかね?
というわけで、プレイ開始後しばらくしてからこれが外国製だと知って、驚きました。
外国製の割にビジュアルはかなり好き。
デフォルメの効いた日本のアニメ風で、クソオタクの自分から見ても全く違和感ありません。
萌えたよ俺はッ!(古語)
スイートハートとかは戦闘画面でがっかりするパターンかと思いきや、普通に可愛くてやるじゃねえか!
主要キャラについては、最初は普通に「オーブリーの髪の毛吸いたい」と思ってましたが、進行するにつれて「バジルきゅん……💕」となってきました(キモ
泣き顔で「僕を置いていかないで!」って言ってくるシーンよ!直撃しますね(股間に)
そういう作風からか二次創作もなかなか多く、pixiv、steam、reddit、4chan、twitterなどでの画像の収集も捗りました。
GoodEnding後はやっぱりそうなるよね、って私と解釈一致の漫画もあったり。
また、BL趣味は無いけど、サニケルやサニバジならアリかな……と思えてきた。
プレイ後に性癖が歪む可能性。
もちろん今でもオーブリーの髪の毛は吸いたいので。
サニーに関しては、他のキャラクターと比べるとやはり好きだとは言えません。
本当はみんなから愛されたいのにたまにうっとうしいような仕草をしながら、しかも他者へ愛を返さないところが……まるで嫌いな自分みたいで、さ。
罪を犯したことが分かっていながら報いから逃げてしまうところも、ね。
だからこそ最後のオモリ戦の本音の自傷に共感して、あのEndに感動するんだけれどよ!
ストーリーについては、基本的に「ほのぼの系と見せかけて、実は……」ってパターンの進行。
意外性を演出して心の振れ幅を大きくしてやろう……としているって考えるとこれは嫌らしい!最高ですね!
誰かの空想の世界を旅している、ということは序盤で察しがつくかと思いますが、だからこそ何が隠されているのか、時折出てくるものは「何か」。
真実を小出しに小出しにするから、ゆっくりと核心部へ向かう様子がまるで真理の探究のような、そんな快感に導かれるまま一気にプレイしましたよ。
最初は、バジルを助けようとしてマリが死んだのかと思いました。
バジルが苦しんでいる、マリは故人である、この2点の情報くらいしか中盤までは分かりませんでしたし。
サニーにも罪悪感がある理由がなかなか分からず、真実のアルバムでようやく。
ブラックスペースの雰囲気はまさしく「ゆめにっき」なのですが、「ゆめにっき」自体はストーリーは無いもしくは隠されていたはずです。
理由もなく病的で狂気の世界を旅するのがあのゲームでしたが、Omoriではゆめにっきにストーリーを付けるとしたら・解釈するとしたら、の回答のような演出をしてくれましたね。
言語化していない無意識の感情の中の黒いものを表現するとしたら、ああいうものにもなるでしょう。
逃避、罪悪、恨み、自傷……ゆめにっきよりも人の心を感じるから、これはこれで強く来るものがあります。
あの無表情の下に、これだけのものがあったとは。
Omoriは罪悪だけのストーリーではありません。
サウダージ、郷愁、憧憬、思慕、切なさ、決して戻らない幸福な日々、失ってしまった可能性の未来、喪失感……
そういうものが非常に多く描かれ、子供の世界だというのに大人にも深い感動を与えるゲームになってくれたと思います。
特に最序盤のテレビからも分かる通り、このサウダージの側面は名作「スタンド・バイ・ミー」に大きく影響を受けていると考えて良いでしょう。
4人が旅をする、ツリーハウスを溜まり場とする。
スタンド・バイ・ミーのラストシーンでは「12歳だったあの時のような友だちは、それからできなかった」との名言がありますが、そう言えばヘッドスペースのサニー(オモリ)たちも12歳だったな……
GoodEndingの、生まれてから共に育って、失った未来だけど、マリと共演するあのアニメさあ!
やめてくれ……
この楽しい日々が永遠に続いて欲しいと思えるシーンを、いくつも見せるところさあ!
やめてくれ……
……ちょっと反則過ぎますねえ!その演出!
俺たちにも、無いだろうか。
思い出すと苦しいけど、覆い被せている大切なことが。