四国遍路 39日目白鳥~帰宅!

39日目(最終日)
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 旅の終わりの日です。朝食はスーパーで購入したパンと、インスタントコーヒー。
 3時に起床し、3:40に出発。自宅までの距離がわからないから、念には念を、ということで早出しました。
 まだ真っ暗ですが、快晴のため、星がかなり綺麗でした。周囲に民家などが無い場所でしたので、ヘッドライトの光以外は全て、星の光。
 ずっと真っ暗な道を歩いていたので、白鳥温泉に近い場所にあった街灯が何となく良いものに思えました。ああ…思えば、足摺岬で出会った中秋の名月も街灯くらい明るかったな~…。
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 車などの音はほとんど無く、静かな道を歩いていきました。
 心も静かに、最後を歩んでいく。最後の夜明け前を、歩いていく。
 時間が経ってくると、ゆっくりと明るくなってきます。旅の最後の、夜明けだ。
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 太陽は明るい。そしてその光は温かい。
 太陽は毎日昇り、全てを照らし、全てのエネルギー源となっていく。新しい一日、新しい自分が始まる。そしてそれは、毎日必ず起こることです。
 真言宗は大日如来を主に祀る宗派のようです。最初は「仏陀本人を祀らないの?」と思っていましたが、歩き遍路でこうやって毎日太陽が昇る姿を見ていると、地球上の生命たちの原動力は、この太陽(大日如来)じゃないのか、と思うようになったので、納得できました。日本の国旗だって、その意味するところは太陽ですからね。
 
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 太陽の温かさ、空の雄大さ、大地の果てしなさ、世界の計り知れなさは、人工物に囲まれた狭い場所で過ごしているとわからないことだと私は思います。歩き遍路ではそういったものを知る手がかりにもなったんじゃないのか、と今では思います。
 ずっと歩いていると、肉体も精神も疲れてきます。しかし、そういうときに私を癒してくれたのは、私が何かを知ったことによる新しい世界の発見なんじゃないかと。あんなに苦労していたのにやり切るまで頑張れたのは、歩いているときに形容できない何かを得られていたから。
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 歩いた時期は、秋です。歩き始めにはあまり無かったけど、高知県くらいから秋の風物詩であるコスモスと共に歩いていました。四国は温暖ですので紅葉はまだでしたが、コスモスのおかげで秋らしさを味わえましたよ。
 こうやって季節の何かを見ていると、過去に同じ季節に行ったことを色々思い出します。例えば、小学生のときに課外授業でコスモスの写生をしたこととか、受験を控えている高校3年生の頃に気晴らしに散歩をしていたときに秋の空の深さに気づいたこととか。
 季節があることは、楽しいことですね。温度と光の強弱が変わるだけなのに、風や花や人の生活などの多くも一緒に移り変わっていきますから。
 移ろうことは寂しくもあります。寂れた町とかそういうのを見ると、特に。しかしそういう感情も、私にとっては楽しいものです。
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 平地をずっと歩いて、引田に到着。遍路地図にゆかりの地として名前と場所だけが載っている、東海寺に寄ってみました。このお寺にも大師堂はありました。義経ゆかりのものが多かったです。
 もうこのときは四国遍路88箇所のマニュアル通りの参拝は行わず、お賽銭と手を合わせて祈ることだけ行いました。そう、これからは、自分なりの祈り方で祈ろうかと思います。ただ「祈る」という行為に、純粋に。
 
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 東海寺が、この旅最後の道程にある中での目的地です。これから国道11号を通って、帰宅します。最後の最後を目指します。
 帰宅途中、何だか不思議な感覚に陥りました。言葉にしてみれば、「今まで記号に思えたものが、全てそのままの状態で認識することが出来た」ということでしょうか。
 山を見れば「山」、空を見れば「空」、太陽を見れば「太陽」という言葉に支配されているようでしたが、このときは何を見ても「…」でした。自分の固定観念などが全て消え去ったのか?
 もうこのときには「旅をするのに理由がいるかい?」みたいな言葉すら必要なくなりました。無心で歩いていた思います。…小学生の頃に無心で遊んでいた自分のようだ…。あの頃は無自覚に「幸せ」を知っていたような…。
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 そして、香川から徳島へ。遂に帰ってきました、徳島へ。
 もう振り返っても香川の平野は見えません。県境らしい、海岸線が見えるだけ。
 足裏が少し痛んできたのでこの頃には無心の状態から普通になっていました。足裏の痛みによって今までの足裏の痛みとの闘いを思い出したりして、少し微笑みました。
 痛い、だけどこれはもうすでに経験してきたし、我慢してきたことだ。大丈夫、そう大丈夫だ。
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 海岸線ではたまに小さな川と平地があって、そういうところに集落や漁港があります。しかし基本的に単調。歩きやすいからいいけどね。
 ロマンチック街道なんていう、今はトンネルが通っている海岸旧道道路のど真ん中に芸術品が点在しています。昔見たことあるけど、今見ても、変だなあ…。
 歩いていくと、見たことのあるものがどんどん出てきます。帰ってきたんだ…。
 途中で最後のお接待。「もう今は遍路じゃないから…」と断ろうとしましたが、相手は「いいから」と言って、ゴマ団子をくれました。その人も地元の人で、歩き遍路をやったそうな。何だか、心晴れやかな気分です。
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 実家まで、最後の道を歩みます。幼い頃からずっと見てきた景色…、ここが私の心の原風景。出発のときは雨だったけど、帰るときは晴れ。心の状態が少し変わったこともあってか、いつも見ていたものとは少し違っていたように思いました。
家の前まで歩き、立ち止まる。深呼吸をして、扉を開ける。
ただいま!
歩行距離:約32km

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(2010/04/21)
近藤 雄生

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Posted by YU